君が大人になった時、もしまだ俺のことが好きだったなら・・・
中庭に植えられた数本の桜の木は満開で、俺たち以外にも桜を見に来ている患者たちがいた。

「うわー」
満開の桜が風が吹くとブワッと舞って、花吹雪のように散っていく。

手を広げて花びらを浴びる小林は嬉しそうに笑っていた。

そこに、小さなシャボン玉がプワプワと飛んできた。
芝生の上でシャボン玉をしているパジャマにコートを着た子供に目を細める。

「寒くないか?」
と尋ねると、
「うん」
と俺を見る。

俺は小林の横に跪き、少しずれたひざ掛けを掛けなおし、少し下りているベンチコートのファスナーを上まで上げた。
胸にあたったりしていないのに、小林は顔を赤くして視線をずらした。

俺は跪いたまま。
跪いたまま、小林を見つめた。
小林は、ゆっくりと視線を上げ、俺と見つめあう。

まっすぐなきれいな瞳。

愛おしさが溢れてくる。


「小林」
「は、はいい!」
小林の声が上ずっている。

「コホン。はい」
小林は返事を言い直した。
くすっ。

「かわいいな」
と笑うと、顔を真っ赤にして、
「また、ボンボンがとかって言うんでしょ!
もうだまされないんだからッ」
と顔を横に向けた。

「小林、こっち見て?」
優しく言うと、ゆっくりと俺に視線を戻した。

「・・・・・・・。」




  好きだ。


俺は『好きだ』という言葉をぐっと飲みこんだ。




  小林が卒業したら付き合って欲しいんだ。




俺はぐっと奥歯を噛んだ。



このまま小林を抱きしめて、自分の気持ちを伝えることが出来たら、小林はなんて言うだろう?
俺のことを受け入れてくれるだろうか?



・・・・なんて。
自分勝手なことを言ってはいけない。
俺はもう学校からいなくなるんだから。
小林の前からいなくなると決めたのだから。


俺ができることは・・・・。



「花びらが」

と言って、帽子に付いた桜の花びらを指先でつまんで見せた。


「わーーーー!」
と叫んだ小林は顔を真っ赤にしたまま、
「本っ当に先生って嫌なヤツ!!」
と怒るので、俺は声をあげて笑った。


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