この命のすべてで、君を想いたい

この手を離したくない(空side)

屋上の風を背に、二人で過ごした時間の余韻を胸に、俺たちはゆっくり病室へ戻った。



「今日は、もう寝ようか」



声をかけると、雫は小さくうなずき、ベッドに横になる。




シーツに沈む体の柔らかさ、呼吸のリズム。




いつもより穏やかで、ほんの少しだけ安心できる夜。



空はそっと横に座り、雫の髪を撫でる。




指先に伝わる温もりが、胸にぎゅっとくる。
こんなに愛おしい時間があるなんて、夢のようだと思った。





「……空」


耳元で小さな声。振り返ると、眠そうな瞳で見上げる雫。


『うん、いるよ』



手を握るだけで、言葉は要らなかった。



最後の夜を思い出すように、ただ隣にいる。それだけで、十分だった。



雫はゆっくりと目を閉じ、浅く呼吸を整える。




ベッドの脇で体を寄せ、声を出さずにただ見守った。


このまま時間が止まればいいのに。
ずっとずっとそばにいたいのに。


そう何度も思いながら
暗く静かな病室に、二人の呼吸だけがゆっくりと響く。



でも、時間が経つにつれて、
何かが少し変わっていくのを感じた。




雫の胸の上下が、いつもより不規則に、少し浅くなっていく。



手を握っても、返す力が弱くなっていく。



『……雫、大丈夫か?』



耳元でそっと声をかける。
返事はない。微かに胸が動くのみ。




心臓の奥がざわつく。
屋上で笑っていた、あの小さな幸せが、今、薄く霞んでいくようだ。



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