危険すぎる恋に、落ちてしまいました。1【完結】
4.文化祭準備騒動
「黒薔薇学園・文化祭準備開始!」
——という校内放送が鳴り響いた朝、美羽の平穏は再び奪われた。
生徒会室に呼び出された美羽は、目の前に積まれた大量の書類を見て、固まった。
「え……これ、全部……私がやるの?」
椿は腕を組み、淡々と答える。
「当然、新人の仕事だ。」
「ちょ、ちょっと待って!これ絶対“新人”の量じゃないよね!?」
「文句あるのか?」
「ありますっ!!」
すかさず、椿が冷ややかに微笑んだ。
「秘密、ばらしてもいいんだぞ?」
「うぐっ……!」
ぐぬぬ、と美羽は歯を食いしばった。
(この人、ほんとに悪魔!?)
「……わかりました。やりますよ、やればいいんでしょ……!」
「素直でよろしい。」
「素直じゃなくて、脅されてるんですけど!!!」
そんな二人のやり取りを、後ろで見ていた悠真は頬杖をついていた。
「……ねぇ、あれ、どう見てもイチャついてるようにしか見えないのは僕だけかな?」
玲央はタイピングを止めずに答える。
「いいデータ取れそうだな。恋愛傾向、確実に好敵手型。」
「わかる〜。結構お似合いじゃんねぇ?」と遼がにやにや笑う。
碧は両手を上げ、「雨宮さん!今日は俺と勝負しましょう!」と空気を読まない。
「勝負しませんっ!!」
「えぇ〜っ」
(……なんでこの人たち、誰も止めないの!?)
午後。
美羽が大量のポスターを抱えて廊下を歩いていると、悠真が後ろから声をかけた。
「ねぇ、そういえば、美羽ちゃんのクラスって出し物決まったの?」
「ん?メイド喫茶、だけど。」
「えっ!? 美羽ちゃんのメイド服!? え、やばっ、一眼レフ買わなきゃ!」
「悠真くん落ち着いて!! 私、裏方だから!いやはなから着ないから!!」
「……え」
悠真がショックを受けた顔で、しゅんと項垂れた。
「僕の……夢が……」
「勝手に見てた夢でしょ!」
そんなやりとりを横目に、椿が無言で通り過ぎる。
(……聞いてた?今の……絶対聞いてたよね……?!)
――数日後。
文化祭の準備は予想以上にバタバタだった。
黒薔薇生徒会も出し物の統括でてんてこまい。
夜、部屋でスマホを見ると、鈴からメッセージが届いていた。
『美羽ちゃん〜♡ 文化祭、絶対行くね!』
美羽は顔をほころばせた。
「やった……! 鈴ちゃん、来てくれるんだ!」
(あの子が来るなら……がんばらなきゃね)
一方その頃、生徒会室。
椿はひとり、パソコンの前で過去の監視カメラ映像を見ていた。
そこには——
泣きじゃくる鈴の頭を優しく撫で、微笑む美羽の姿。
椿は息をのんだ。
(……あの時の笑顔)
静かに再生を止め、画面を見つめる。
(……この顔、忘れられない)
そんな椿の背後から、軽い足音。
「なに見てんの、椿?」
悠真が現れた。
「……前から思ってたけど、さ。椿——美羽ちゃんのこと、好きだよね?」
椿は即座にパソコンを閉じ、冷たく言い放った。
「なんの冗談だ?」
「冗談に聞こえないけど?」
悠真の瞳が鋭く光る。
「だってさ、その映像。何回見てるの? もうバレバレじゃん。」
椿の表情が一瞬だけ揺らいだ。
「椿、僕は美羽ちゃんを諦めてないから。」
静かな宣戦布告。
その声には、確かな闘志がこもっていた。
椿は腕を組み、無表情のまま言う。
「勝手にしろ。」
しかし、その目の奥は——明らかに、火が灯っていた。
――その頃。
美羽と莉子は文化祭の買い出しに出ていた。
「ねぇ莉子、このリボンかわいくない?」
「かわいい〜! 美羽、リボン似合いそうだよ!」
そんな平和な時間。
……だったのに。
「おい、そこの姉ちゃんたち。ちょっと待てよ。」
黄色いジャケットを着た不良グループが道を塞いだ。
(やば……絡まれた)
「な、なにかご用ですか?」
「へぇ?なかなかいい顔してんじゃん。」
莉子が怯えたように美羽の腕を掴む。
「み、美羽……怖いよ……」
「大丈夫、後ろに下がって。」
「こそこそうるせぇなぁ!」
バシッ、と音が響く。
莉子が叩かれて、地面に倒れ込んだ。
「莉子っ!!」
美羽の中で何かが切れた。
(あぁ……もう知らない)
瞬間、風が走った。
一人、二人、三人——
あっという間に不良たちが地面に崩れ落ちた。
「な、なんだこいつ……!?」
残った一人が震えながらナイフを構える。
「調子のんな、このアマ!」
ヒュッ。
美羽の足首に熱い痛みが走る。
(うそっ!……切られた!?)
だが、美羽は表情を変えず、残りの男の腹を蹴り飛ばした。
静寂。
倒れた不良たちの間で、風の音だけが響いた。
「救急車を!……お願いします!!」
病院の白い光の中。
ベッドに横たわる莉子の手を握る美羽の手が震えていた。
病院。
無機質な光の下、ベッドで眠る莉子。
美羽は手を握りしめていた。
「……ごめんね莉子、守りきれなくてっ。」
その肩を叩く手。
顔を上げると——椿。
その後ろには、悠真・玲央・碧・遼の姿があった。
「おい、一体何があった?」
椿の声が、鋭く響く。
「……買い出しの帰りに、黄色いジャケットの連中に絡まれて……」
「…っ、怪我は!?」
「私は平気……」
「平気じゃねぇだろ!!」
怒鳴られて、美羽は小さく震えた。
悠真が慌てて間に入る。
「ちょっと椿、落ち着けって! 美羽ちゃん、それでも戦って頑張ったんだよ!」
「黙れっ!」
椿の怒りは、心配が変形したものだった。
「……なんでもっと早く呼ばなかった!」
「だって、自分でなんとかできたから!」
「そういう問題じゃねぇ!」
「もう……そんなに怒ることないじゃん……!」
涙が、こぼれた。
沈黙。
椿は拳を握り、そしてゆっくり息を吐いた。
「……悪い。言いすぎた。」
椿の手が、そっと美羽の頭に触れる。
「怖かったろ。よくやった。」
「……」
その優しい声に、胸がぎゅっと締め付けられた。
玲央が冷静に言う。
「黄色いジャケット……“寅豪チーム”だな。」
椿の瞳が鋭く光る。
「全員、潰す。」
「え!? そんなの——」
「俺は許さない。」
短い言葉に、深い怒りと……誰かを想う熱が宿っていた。
「お前はもう、黒髪生徒会の一員だ。
……守るのは俺の役目だ。」
そう言って視線を落とした椿は、
美羽の足元に目を留めた。
ふと椿が視線を落とす。
美羽の足元。黒のルーズソックスが、少し不自然に見えた。
「……おい。足、出せ。」
「え?」
椿が突然、美羽を引っ張り、椅子に座らせる。
「ちょ、ちょっと!? なにするの!?」
容赦なく靴下を脱がされ——露わになる、包帯。
「なんだこの包帯。」
「ちょっと挫いた? みたいな?」
「嘘つけ。」
椿が足首を軽く掴むと、美羽が顔をしかめる。
「いっ……!」
「切られたのか。」
椿の声が低く、怒りを含んでいた。
血がにじんでいる。
「たいしたことないよ……」
「たいしたこと、あるだろ!」
怒鳴り声。
でもその奥には、焦りと痛みが混じっていた。
「いいか?お前がどんなに強くてもな、"所詮は女"なんだぞ……!!」
「わかってるよ!!」
「わかってたら、こんなことにはならねぇ!」
「…っ!!」
声が震え、沈黙が落ちた。
そして——
「ちっ……悪い。」
静かに、ゆっくりと美羽の頭をぽんと撫でる。
「お前の無茶は、もう見たくねぇ。」
椿は立ち上がり、背を向けた。
「ちょっと、外に出てくる。」
その背中を、涙で滲んだ視界で見送りながら——
美羽の胸の奥で、何かが確かに鳴った。
(……どうして、この人の言葉で……こんなに心が痛いの)
そしてその痛みが、
“恋”の形をしていることに、まだ美羽は気付いていなかった——。
——という校内放送が鳴り響いた朝、美羽の平穏は再び奪われた。
生徒会室に呼び出された美羽は、目の前に積まれた大量の書類を見て、固まった。
「え……これ、全部……私がやるの?」
椿は腕を組み、淡々と答える。
「当然、新人の仕事だ。」
「ちょ、ちょっと待って!これ絶対“新人”の量じゃないよね!?」
「文句あるのか?」
「ありますっ!!」
すかさず、椿が冷ややかに微笑んだ。
「秘密、ばらしてもいいんだぞ?」
「うぐっ……!」
ぐぬぬ、と美羽は歯を食いしばった。
(この人、ほんとに悪魔!?)
「……わかりました。やりますよ、やればいいんでしょ……!」
「素直でよろしい。」
「素直じゃなくて、脅されてるんですけど!!!」
そんな二人のやり取りを、後ろで見ていた悠真は頬杖をついていた。
「……ねぇ、あれ、どう見てもイチャついてるようにしか見えないのは僕だけかな?」
玲央はタイピングを止めずに答える。
「いいデータ取れそうだな。恋愛傾向、確実に好敵手型。」
「わかる〜。結構お似合いじゃんねぇ?」と遼がにやにや笑う。
碧は両手を上げ、「雨宮さん!今日は俺と勝負しましょう!」と空気を読まない。
「勝負しませんっ!!」
「えぇ〜っ」
(……なんでこの人たち、誰も止めないの!?)
午後。
美羽が大量のポスターを抱えて廊下を歩いていると、悠真が後ろから声をかけた。
「ねぇ、そういえば、美羽ちゃんのクラスって出し物決まったの?」
「ん?メイド喫茶、だけど。」
「えっ!? 美羽ちゃんのメイド服!? え、やばっ、一眼レフ買わなきゃ!」
「悠真くん落ち着いて!! 私、裏方だから!いやはなから着ないから!!」
「……え」
悠真がショックを受けた顔で、しゅんと項垂れた。
「僕の……夢が……」
「勝手に見てた夢でしょ!」
そんなやりとりを横目に、椿が無言で通り過ぎる。
(……聞いてた?今の……絶対聞いてたよね……?!)
――数日後。
文化祭の準備は予想以上にバタバタだった。
黒薔薇生徒会も出し物の統括でてんてこまい。
夜、部屋でスマホを見ると、鈴からメッセージが届いていた。
『美羽ちゃん〜♡ 文化祭、絶対行くね!』
美羽は顔をほころばせた。
「やった……! 鈴ちゃん、来てくれるんだ!」
(あの子が来るなら……がんばらなきゃね)
一方その頃、生徒会室。
椿はひとり、パソコンの前で過去の監視カメラ映像を見ていた。
そこには——
泣きじゃくる鈴の頭を優しく撫で、微笑む美羽の姿。
椿は息をのんだ。
(……あの時の笑顔)
静かに再生を止め、画面を見つめる。
(……この顔、忘れられない)
そんな椿の背後から、軽い足音。
「なに見てんの、椿?」
悠真が現れた。
「……前から思ってたけど、さ。椿——美羽ちゃんのこと、好きだよね?」
椿は即座にパソコンを閉じ、冷たく言い放った。
「なんの冗談だ?」
「冗談に聞こえないけど?」
悠真の瞳が鋭く光る。
「だってさ、その映像。何回見てるの? もうバレバレじゃん。」
椿の表情が一瞬だけ揺らいだ。
「椿、僕は美羽ちゃんを諦めてないから。」
静かな宣戦布告。
その声には、確かな闘志がこもっていた。
椿は腕を組み、無表情のまま言う。
「勝手にしろ。」
しかし、その目の奥は——明らかに、火が灯っていた。
――その頃。
美羽と莉子は文化祭の買い出しに出ていた。
「ねぇ莉子、このリボンかわいくない?」
「かわいい〜! 美羽、リボン似合いそうだよ!」
そんな平和な時間。
……だったのに。
「おい、そこの姉ちゃんたち。ちょっと待てよ。」
黄色いジャケットを着た不良グループが道を塞いだ。
(やば……絡まれた)
「な、なにかご用ですか?」
「へぇ?なかなかいい顔してんじゃん。」
莉子が怯えたように美羽の腕を掴む。
「み、美羽……怖いよ……」
「大丈夫、後ろに下がって。」
「こそこそうるせぇなぁ!」
バシッ、と音が響く。
莉子が叩かれて、地面に倒れ込んだ。
「莉子っ!!」
美羽の中で何かが切れた。
(あぁ……もう知らない)
瞬間、風が走った。
一人、二人、三人——
あっという間に不良たちが地面に崩れ落ちた。
「な、なんだこいつ……!?」
残った一人が震えながらナイフを構える。
「調子のんな、このアマ!」
ヒュッ。
美羽の足首に熱い痛みが走る。
(うそっ!……切られた!?)
だが、美羽は表情を変えず、残りの男の腹を蹴り飛ばした。
静寂。
倒れた不良たちの間で、風の音だけが響いた。
「救急車を!……お願いします!!」
病院の白い光の中。
ベッドに横たわる莉子の手を握る美羽の手が震えていた。
病院。
無機質な光の下、ベッドで眠る莉子。
美羽は手を握りしめていた。
「……ごめんね莉子、守りきれなくてっ。」
その肩を叩く手。
顔を上げると——椿。
その後ろには、悠真・玲央・碧・遼の姿があった。
「おい、一体何があった?」
椿の声が、鋭く響く。
「……買い出しの帰りに、黄色いジャケットの連中に絡まれて……」
「…っ、怪我は!?」
「私は平気……」
「平気じゃねぇだろ!!」
怒鳴られて、美羽は小さく震えた。
悠真が慌てて間に入る。
「ちょっと椿、落ち着けって! 美羽ちゃん、それでも戦って頑張ったんだよ!」
「黙れっ!」
椿の怒りは、心配が変形したものだった。
「……なんでもっと早く呼ばなかった!」
「だって、自分でなんとかできたから!」
「そういう問題じゃねぇ!」
「もう……そんなに怒ることないじゃん……!」
涙が、こぼれた。
沈黙。
椿は拳を握り、そしてゆっくり息を吐いた。
「……悪い。言いすぎた。」
椿の手が、そっと美羽の頭に触れる。
「怖かったろ。よくやった。」
「……」
その優しい声に、胸がぎゅっと締め付けられた。
玲央が冷静に言う。
「黄色いジャケット……“寅豪チーム”だな。」
椿の瞳が鋭く光る。
「全員、潰す。」
「え!? そんなの——」
「俺は許さない。」
短い言葉に、深い怒りと……誰かを想う熱が宿っていた。
「お前はもう、黒髪生徒会の一員だ。
……守るのは俺の役目だ。」
そう言って視線を落とした椿は、
美羽の足元に目を留めた。
ふと椿が視線を落とす。
美羽の足元。黒のルーズソックスが、少し不自然に見えた。
「……おい。足、出せ。」
「え?」
椿が突然、美羽を引っ張り、椅子に座らせる。
「ちょ、ちょっと!? なにするの!?」
容赦なく靴下を脱がされ——露わになる、包帯。
「なんだこの包帯。」
「ちょっと挫いた? みたいな?」
「嘘つけ。」
椿が足首を軽く掴むと、美羽が顔をしかめる。
「いっ……!」
「切られたのか。」
椿の声が低く、怒りを含んでいた。
血がにじんでいる。
「たいしたことないよ……」
「たいしたこと、あるだろ!」
怒鳴り声。
でもその奥には、焦りと痛みが混じっていた。
「いいか?お前がどんなに強くてもな、"所詮は女"なんだぞ……!!」
「わかってるよ!!」
「わかってたら、こんなことにはならねぇ!」
「…っ!!」
声が震え、沈黙が落ちた。
そして——
「ちっ……悪い。」
静かに、ゆっくりと美羽の頭をぽんと撫でる。
「お前の無茶は、もう見たくねぇ。」
椿は立ち上がり、背を向けた。
「ちょっと、外に出てくる。」
その背中を、涙で滲んだ視界で見送りながら——
美羽の胸の奥で、何かが確かに鳴った。
(……どうして、この人の言葉で……こんなに心が痛いの)
そしてその痛みが、
“恋”の形をしていることに、まだ美羽は気付いていなかった——。