危険すぎる恋に、落ちてしまいました。1【完結】

5.気づいた気持ち

校舎の外は朝からにぎやかだった。
焼きそばの香ばしい匂いと、スピーカーから流れるポップな音楽。
空は高く晴れていて、まるでこの日のために磨かれたみたいだった。

「いよいよ文化祭、始まっちゃったね〜!」
莉子がテンション高く、ポスターを抱えながら走ってきた。

「ほんと、すごい人の数……。生徒会とクラス、どっちもあるからバタバタだよ〜」
美羽は肩のネーム札を直しながら、笑った。

そのとき——スマホが震えた。
"鈴ちゃん"の文字。

「え?鈴ちゃん、もう着いたの!?」

画面を見つめながら思わず声が上ずる。
「少し抜けてくるね!」
「ちょっと〜、すぐ戻ってきなよ〜!」と莉子の声が背中に届いた。




校門前、人混みの中で聞き慣れた声がした。

「美羽ちゃーん!こっちこっちーっ!」

手をぶんぶん振っているのは、北条鈴。
その隣には数人の女子中学生がきゃっきゃと盛り上がっている。

「鈴ちゃ〜ん!」
美羽も笑顔で駆け寄る。
二人が顔を合わせると、鈴は嬉しそうに跳ねた。

「美羽ちゃん、今日はありがとう! 一緒に回ろうってずっと楽しみにしてたの!」

「こちらこそ、来てくれてうれしい!」

そんな平和な空気を、少し低い声が切り裂いた。

「鈴。」

振り返ると、そこには黒薔薇の王――北条椿。

一瞬で、まわりの空気が変わる。
女子たちの黄色い悲鳴が飛んだ。

「え、やばっ、本物じゃん……!」「椿くんって、生で見るとさらに顔面やばい!」
「妹ちゃんも天使〜!!」

鈴の友達たちは興奮していて、美羽は思わず苦笑い。
「はは……これは目立つね……」

(というか……私も一緒に見られてる? 気のせいだよね?)

そんな中で、鈴と椿が並んで話している姿を見て、
美羽の胸の奥がふわりと揺れた。

(椿くん……あんな優しい顔、できるんだ……)

鈴の頭を軽く撫でながら微笑む椿。
その光景が、なんだか胸の奥をくすぐる。
そして、自分がドキドキしていることに気づいて、慌てて視線を逸らした。

(な、なんで私、兄妹の会話でドキドキしてるの!?)







「美羽ちゃん、次どこ行く? 私メイド喫茶見てみたいんだけど!」
鈴が目を輝かせる。

「え!? あ、うん、ちょうど私のクラスだからいこっか!」

「やったー!」

そんな鈴たちと一緒に、美羽はクラスへ戻った。
中に入ると、教室は想像以上の熱気。

「いらっしゃいませ〜♪」

「鈴ちゃん!? なになに!?椿会長の妹さん!?」
「きゃぁー! VIPゲストよー!!」

クラス中がどよめく。
莉子がすぐに飛びついてきた。

「ちょっと美羽!!なんで教えてくれなかったの!? 椿くんファミリーとか超VIPでしょ!? 写真撮りたかったのにぃ!」

「いや、あの、偶然というか……」
美羽は頭をかきながら苦笑いするしかなかった。

そこへまた、タイミングよく登場した男が一人。

「美羽ちゃ〜ん、迎えに来たよ?」

白石悠真。
黒薔薇の副会長、そして腹黒王子。
今日も完璧な笑顔を携えていた。

「……迎え?」

「やだなぁ、美羽ちゃん。文化祭、一緒にまわる約束したでしょ?」
ウインクひとつ。

「そ、そうだった! ごめんね、悠真くん!」

そのやり取りを少し離れたところで見ていた椿。
眉間の皺が、わずかに深くなった。

鈴が面白そうに笑う。
「えー!? 美羽ちゃん、悠真くんとデートなの!?」

「ち、ちがうよ!! ちょっと一緒に回るだけ!」

「ふふ、美羽ちゃん、そんなに照れなくてもいいのに〜」
悠真はちゃっかり彼氏みたいな笑顔をしている。

「もうっ! 調子に乗らないの! 行くよ!」
顔を真っ赤にした美羽は、悠真の手をつかんで引っ張っていった。

その姿を見ながら、鈴が椿に小声で囁く。

「もうお兄ちゃんたら、ちゃんと言わないと、美羽ちゃん取られちゃうよ?」

「……ちっ。鈴、うるさい。」

その声は低く、でもほんの少しだけ寂しそうだった。






悠真と並んで校内を歩く。
風が頬を撫で、遠くで笑い声が響く。
「ねぇ美羽ちゃん、劇見に行こうよ。黒薔薇の劇、すっごいレベル高いんだ。」

「うん! 見たい!」

二人が座った体育館の観覧席。
照明が落ち、ステージが光に包まれる。

"令和版ロミオとジュリエット"——
宝塚志望の生徒たちが演じる、息をのむほど美しい世界。

美羽はうっとりと見入っていた。
(すごい……こんな劇、高校生がやってるなんて……)

そんな彼女の横顔を、悠真は静かに見つめていた。
ステージの光が彼女の髪を照らし、頬を淡く染める。

——眩しい。
本気で、そう思った。

「ねぇ、美羽ちゃん。」

「ん? なぁに?」

「僕、ちょっと気になることがあってさ。」

「なに?」

悠真の声が、ほんの少しだけ震えていた。

「美羽ちゃんさ……もしかして、——"椿のこと好き?"」

劇の音が遠のく。
観客のざわめきも消える。
時間が、ふっと止まったようだった。

美羽は、ゆっくりと顔を向ける。

「……え?」

ステージの光が二人の間を照らした。
美羽の胸の鼓動が、世界の音を塗りつぶしていく。

(どうして……いま、そんなこと聞くの……?)

声にならない思いが、喉の奥で溶けていった。
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