危険すぎる恋に、落ちてしまいました。1【完結】
9.か弱い女の子
爆ぜるような衝撃音が次々と、倉庫の静寂を叩き割った。
ガシャァァァン!!
金属扉が歪み、破壊され、粉塵が舞い上がる。その向こうから――
夜空を切り裂くような、何台かのバイクのヘッドライトの光が差し込んだ。
「……っ!!」
美羽の胸が、大きく跳ねる。
まるで映画のワンシーンのように、白い煙の向こうから姿を現したのは――
黒い特効服を風に揺らし、傷だらけの額をそのままに、歩いてくる椿だった。
そして、椿の後ろには黒薔薇の生徒会メンバー――
悠真、碧、遼、玲央――全員が並んでいた。
夕日のような逆光に照らされ、彼らの影が長く伸びる。
その姿は、圧倒的で、強くて、怖いほど美しかった。
美羽は震える声で言った。
「つ……つばき、くん……みんな……!」
椿は息を切らしながら、しかし静かな怒気をまとって一歩踏み込む。
悠真は美羽の姿を見つけて、息を呑んだ。
「美羽ちゃん!!」
縛られ、頬に涙とほこりをつけ、首には秋人の手による赤い痕。
それを見た瞬間――悠真の顔から笑みが消えた。
碧はニコリと笑うが、その目は今まで見たことのないほど冷たい。
「女性を痛めつけるとは……あなた、とっても良くない趣味をお持ちのようですね?」
遼は足を組み、秋人を睨みつけた。
「その手を離しな。……女の子の扱い方、一から教えてやるからよ?」
玲央は溜息をつきながら、秋人を軽蔑したように見た。
「SMは、ちゃんとした店で取り扱うものです。素人がやると事故になりますよ?」
「……なんだ、お前ら……」
秋人が舌打ちし、美羽を乱暴に突き放して立ち上がった。
美羽は倒れ込みながらも、椿の方を見る。
「椿くん……!」
――その瞬間だった。
50人近い白百合の構成員が、秋人の背後から姿を現した。
倉庫の広間は、黒と白の特攻服で埋め尽くされ、重苦しい殺気が漂う。
秋人は手を広げ、余裕の笑みを浮かべた。
「ようこそ、黒薔薇の皆さん。歓迎するよ。
昨日ぶりだねぇ……ゆっくり寝れたかい椿くん?」
椿はゆっくりと前に出る。
その足どりはふらついているが、その瞳は鋭く一点を射抜いていた。
「……秋人、お前……美羽を解放しろ。」
「へぇ、まだそんな余裕があるんだ?傷だらけのくせにさぁ。」
秋人は笑い、手下達に顎をくいっと動かした。
「君達、相手してあげて?」
次の瞬間――白百合が黒薔薇に雪崩れ込んだ。
*
「いくぞ、黒薔薇ァ!!」
遼が吠えるように叫び、最初の一人を蹴り飛ばす。
悠真は美羽を見ると、その目の色が一瞬で変わった。
「……よくも、美羽ちゃんを……!!」
その声はいつもの軽薄なトーンではなかった。
碧は優雅な足さばきで、近づく5人を瞬時に倒していく。
「邪魔ですよ、どいてください!」
玲央は眼鏡を外し、無表情のまま敵の急所を的確に突いた。
「もう少し、静かにできませんか?」
圧倒的だった。
まるで嵐の中心にいるかのように、黒薔薇が華麗に舞い、敵を次々と倒していく。
その光景に、美羽は息を飲んだ。
(すごい……こんなに……強いんだ……)
しかし。
秋人はただ笑っていた。
手下が30人倒れようと、20人になろうと。
「楽しい光景だねぇ?椿。黒薔薇ってこんなに弱かったっけ?」
椿は乱暴に口元の血を拭く。
「黙れ」
美羽は息を呑む。
傷つきながらも立ち続ける椿は、美羽の心を強く掴んで離さなかった。
*
手下が10人ほどになった時だった。
秋人が手を上げた。
「はーい。ストーーップ」
白百合も黒薔薇も、その声に反応して動きを止める。
「俺ちょーっと、飽きてきちゃった。
そうだ、楽しい余興を思いついた!」
秋人はニヤリと笑い、美羽の前に歩いてきた。
そして――美羽の顔すれすれに、銀色のナイフを突きつけた。
美羽の喉が、ひゅっと鳴る。
椿が叫ぶ。
「秋人!!てめぇ……!!」
秋人は子どもみたいに笑った。
「面白いねぇ、椿くん。
動けないでしょ?
だって……美羽ちゃんの顔に、傷がつくかもしれないもんねぇ?」
「……っ!!」
椿の拳が震える。
悠真も、碧も、玲央も、遼も――息を呑んで動けない。
美羽は震えながら秋人を睨む。
「卑怯よ!そんなの……!」
「何言ってるの?戦いなんていつだって卑怯なものだよ?」
秋人は椿を見ず、美羽の顔をじっと見つめた。
その目が――狂気に染まっていた。
「椿。どうして君は……昔みたいに、俺だけ見てくれないの?」
「秋人……」
「俺の顔、覚えてる?
君の後ろを守った時にさ――
この顔になったんだよ?」
秋人は右目の傷を指で撫でた。
「椿!!俺はなぁぁぁ!君に、見てほしかったんだよ!!」
「……秋人、」
椿の喉がわずかに震えた。
そして椿は、震える拳を握り締めながら、ゆっくり言った。
「――わかった。」
秋人の顔が喜びに歪む。
椿は続けた。
「俺を好きなだけ殴れ。
お前の……気が済むまでな。」
「っ!!椿くん!!だめ!!」
美羽の叫びは、声にならない悲鳴になった。
秋人は笑い出し、残った手下達に命じた。
「やれ。」
*
そこからは――地獄だった。
椿の身体や顔に拳が振り下ろされるたび、美羽の胸が裂けそうになる。
悠真は鳩尾を蹴られ、倒れ込みながら叫んだ。
「美羽ちゃん……逃げて……!」
遼は顔面を殴られながらも、美羽の方を見て言った。
「泣くなよ……美羽ちゃん……」
玲央は腕を踏まれながら、震える声で呟いた。
「……暫くパソコンが、使えないな………」
碧は足を押さえられ、苦しげに息を吐いた。
「雨宮……さん……目を閉じていてください……!」
秋人は笑い続けていた。
「いいねぇ!いいよぉ!その顔!
絶望した女の子の顔って、芸術だよねぇ!」
美羽は震える身体で、涙を止められずに叫んだ。
「お願い……やめて……椿くん達を傷つけないで……
私なんて……どうなってもいいから……!」
秋人が美羽の顔にナイフを近付けた。
「じゃあ……君の顔を壊していい?」
「っ!!」
死の匂いがした。
倉庫の空気が――止まった。
椿が血まみれの姿で叫ぶ。
「美羽に……触るなぁぁぁっ!!」
しかし身体が言うことを聞かず、膝をついてしまった。
美羽は震える声で呟く。
(どうすれば……どうすればいいの……
もう……誰も傷つくの見たくない……)
涙が頬を伝い、床に落ちた。
(椿くん……ごめん……)
秋人のナイフが、美羽の右目のすぐそばに迫る。
秋人が囁く。
「ねぇ、美羽ちゃん。
傷つく瞬間の顔、俺に見せてよ?」
美羽はきつく目を閉じる。
そのとき――
倉庫が震えるほどの怒号が響いた。
「秋人やめろ――――!!」
椿の叫びは、どんな爆発音よりも大きかった。
美羽の心臓が、大きく跳ねる。
(椿くん……)
その声だけで、まだ戦える気がした。
秋人は笑う。
「怖がる顔が一番いいんだよねぇ。
ほら、美羽ちゃん、諦めて……?」
ナイフが、頬に触れようとしていた――
ガシャァァァン!!
金属扉が歪み、破壊され、粉塵が舞い上がる。その向こうから――
夜空を切り裂くような、何台かのバイクのヘッドライトの光が差し込んだ。
「……っ!!」
美羽の胸が、大きく跳ねる。
まるで映画のワンシーンのように、白い煙の向こうから姿を現したのは――
黒い特効服を風に揺らし、傷だらけの額をそのままに、歩いてくる椿だった。
そして、椿の後ろには黒薔薇の生徒会メンバー――
悠真、碧、遼、玲央――全員が並んでいた。
夕日のような逆光に照らされ、彼らの影が長く伸びる。
その姿は、圧倒的で、強くて、怖いほど美しかった。
美羽は震える声で言った。
「つ……つばき、くん……みんな……!」
椿は息を切らしながら、しかし静かな怒気をまとって一歩踏み込む。
悠真は美羽の姿を見つけて、息を呑んだ。
「美羽ちゃん!!」
縛られ、頬に涙とほこりをつけ、首には秋人の手による赤い痕。
それを見た瞬間――悠真の顔から笑みが消えた。
碧はニコリと笑うが、その目は今まで見たことのないほど冷たい。
「女性を痛めつけるとは……あなた、とっても良くない趣味をお持ちのようですね?」
遼は足を組み、秋人を睨みつけた。
「その手を離しな。……女の子の扱い方、一から教えてやるからよ?」
玲央は溜息をつきながら、秋人を軽蔑したように見た。
「SMは、ちゃんとした店で取り扱うものです。素人がやると事故になりますよ?」
「……なんだ、お前ら……」
秋人が舌打ちし、美羽を乱暴に突き放して立ち上がった。
美羽は倒れ込みながらも、椿の方を見る。
「椿くん……!」
――その瞬間だった。
50人近い白百合の構成員が、秋人の背後から姿を現した。
倉庫の広間は、黒と白の特攻服で埋め尽くされ、重苦しい殺気が漂う。
秋人は手を広げ、余裕の笑みを浮かべた。
「ようこそ、黒薔薇の皆さん。歓迎するよ。
昨日ぶりだねぇ……ゆっくり寝れたかい椿くん?」
椿はゆっくりと前に出る。
その足どりはふらついているが、その瞳は鋭く一点を射抜いていた。
「……秋人、お前……美羽を解放しろ。」
「へぇ、まだそんな余裕があるんだ?傷だらけのくせにさぁ。」
秋人は笑い、手下達に顎をくいっと動かした。
「君達、相手してあげて?」
次の瞬間――白百合が黒薔薇に雪崩れ込んだ。
*
「いくぞ、黒薔薇ァ!!」
遼が吠えるように叫び、最初の一人を蹴り飛ばす。
悠真は美羽を見ると、その目の色が一瞬で変わった。
「……よくも、美羽ちゃんを……!!」
その声はいつもの軽薄なトーンではなかった。
碧は優雅な足さばきで、近づく5人を瞬時に倒していく。
「邪魔ですよ、どいてください!」
玲央は眼鏡を外し、無表情のまま敵の急所を的確に突いた。
「もう少し、静かにできませんか?」
圧倒的だった。
まるで嵐の中心にいるかのように、黒薔薇が華麗に舞い、敵を次々と倒していく。
その光景に、美羽は息を飲んだ。
(すごい……こんなに……強いんだ……)
しかし。
秋人はただ笑っていた。
手下が30人倒れようと、20人になろうと。
「楽しい光景だねぇ?椿。黒薔薇ってこんなに弱かったっけ?」
椿は乱暴に口元の血を拭く。
「黙れ」
美羽は息を呑む。
傷つきながらも立ち続ける椿は、美羽の心を強く掴んで離さなかった。
*
手下が10人ほどになった時だった。
秋人が手を上げた。
「はーい。ストーーップ」
白百合も黒薔薇も、その声に反応して動きを止める。
「俺ちょーっと、飽きてきちゃった。
そうだ、楽しい余興を思いついた!」
秋人はニヤリと笑い、美羽の前に歩いてきた。
そして――美羽の顔すれすれに、銀色のナイフを突きつけた。
美羽の喉が、ひゅっと鳴る。
椿が叫ぶ。
「秋人!!てめぇ……!!」
秋人は子どもみたいに笑った。
「面白いねぇ、椿くん。
動けないでしょ?
だって……美羽ちゃんの顔に、傷がつくかもしれないもんねぇ?」
「……っ!!」
椿の拳が震える。
悠真も、碧も、玲央も、遼も――息を呑んで動けない。
美羽は震えながら秋人を睨む。
「卑怯よ!そんなの……!」
「何言ってるの?戦いなんていつだって卑怯なものだよ?」
秋人は椿を見ず、美羽の顔をじっと見つめた。
その目が――狂気に染まっていた。
「椿。どうして君は……昔みたいに、俺だけ見てくれないの?」
「秋人……」
「俺の顔、覚えてる?
君の後ろを守った時にさ――
この顔になったんだよ?」
秋人は右目の傷を指で撫でた。
「椿!!俺はなぁぁぁ!君に、見てほしかったんだよ!!」
「……秋人、」
椿の喉がわずかに震えた。
そして椿は、震える拳を握り締めながら、ゆっくり言った。
「――わかった。」
秋人の顔が喜びに歪む。
椿は続けた。
「俺を好きなだけ殴れ。
お前の……気が済むまでな。」
「っ!!椿くん!!だめ!!」
美羽の叫びは、声にならない悲鳴になった。
秋人は笑い出し、残った手下達に命じた。
「やれ。」
*
そこからは――地獄だった。
椿の身体や顔に拳が振り下ろされるたび、美羽の胸が裂けそうになる。
悠真は鳩尾を蹴られ、倒れ込みながら叫んだ。
「美羽ちゃん……逃げて……!」
遼は顔面を殴られながらも、美羽の方を見て言った。
「泣くなよ……美羽ちゃん……」
玲央は腕を踏まれながら、震える声で呟いた。
「……暫くパソコンが、使えないな………」
碧は足を押さえられ、苦しげに息を吐いた。
「雨宮……さん……目を閉じていてください……!」
秋人は笑い続けていた。
「いいねぇ!いいよぉ!その顔!
絶望した女の子の顔って、芸術だよねぇ!」
美羽は震える身体で、涙を止められずに叫んだ。
「お願い……やめて……椿くん達を傷つけないで……
私なんて……どうなってもいいから……!」
秋人が美羽の顔にナイフを近付けた。
「じゃあ……君の顔を壊していい?」
「っ!!」
死の匂いがした。
倉庫の空気が――止まった。
椿が血まみれの姿で叫ぶ。
「美羽に……触るなぁぁぁっ!!」
しかし身体が言うことを聞かず、膝をついてしまった。
美羽は震える声で呟く。
(どうすれば……どうすればいいの……
もう……誰も傷つくの見たくない……)
涙が頬を伝い、床に落ちた。
(椿くん……ごめん……)
秋人のナイフが、美羽の右目のすぐそばに迫る。
秋人が囁く。
「ねぇ、美羽ちゃん。
傷つく瞬間の顔、俺に見せてよ?」
美羽はきつく目を閉じる。
そのとき――
倉庫が震えるほどの怒号が響いた。
「秋人やめろ――――!!」
椿の叫びは、どんな爆発音よりも大きかった。
美羽の心臓が、大きく跳ねる。
(椿くん……)
その声だけで、まだ戦える気がした。
秋人は笑う。
「怖がる顔が一番いいんだよねぇ。
ほら、美羽ちゃん、諦めて……?」
ナイフが、頬に触れようとしていた――