恋愛アルゴリズムはバグだらけ!?~完璧主義の俺が恋したらエラー連発な件~

第12話 平行処理:二人との時間管理

自然体でのデートを覚えてから二週間後。



 俺──田中優太は、また新しい問題に直面していた。



「静香の誕生日まであと一ヶ月……」



 カレンダーアプリを見ながら、俺は頭を抱えていた。



 恋人の誕生日。これは重大なイベントだ。失敗は許されない。



「プレゼントは何がいいだろう? サプライズは? 場所は?」



 気がつくと、またExcelファイルを開いていた。



【静香誕生日プロジェクト管理シート】



タスク一覧:

- プレゼント候補リサーチ(期限:3週間前)

- レストラン予約(期限:2週間前)

- サプライズ演出検討(期限:1週間前)

- 当日スケジュール策定(期限:3日前)



「……また、やってしまった」







「田中先輩、大丈夫ですか?」



 歩美が心配そうに声をかけてきた。



「え? ああ、大丈夫だ」



「さっきから、ずっとカレンダーとExcelを行ったり来たりしてますが……」



「いや、これは……研究の進捗管理だ」



「研究の進捗管理で『プレゼント候補』って項目があるんですか?」



 画面を覗かれていた。俺は慌ててファイルを閉じる。



「田中先輩……まさか」



「まさか、何だ?」



「山田さんの誕生日の準備ですね?」



 歩美の推理力は相変わらず鋭い。



「……バレたか」



「やっぱり。でも先輩、また完璧を目指しすぎてませんか?」







 昼休み、大輔に相談した。



「誕生日プレゼントか……何考えてんの?」



「それが分からないんだ。彼女が本当に喜ぶものを選びたいんだが……」



「本当に喜ぶもの?」



「ああ。アクセサリーか、本か、それとも実用的な物か……」



「お前さ、山田さんと付き合ってどのくらいになる?」



「三週間だ」



「三週間の相手に、そんな気合い入れすぎじゃね?」



 大輔の指摘に、俺は少し戸惑った。



「でも、初めての誕生日だからこそ特別にしたくて……」



「特別にするのはいいけど、プレッシャーかけすぎんなよ」





 その日の夕方、図書館で静香と会った。



「お疲れさまです、田中さん」



「お疲れさま。今日も遅くまで大変だね」



「慣れてますから。それより田中さん、なんだか疲れてませんか?」



「そんなことないよ」



「そうですか? なんだか最近、考え事をしてること多いような……」



 静香の観察力も鋭い。



「実は……」



 俺は正直に話すことにした。



「君の誕生日のことを考えてるんだ」



「私の誕生日?」



「ああ。何をプレゼントすれば喜んでもらえるか、どんなお祝いがいいか……」



 静香は少し驚いたような、それから嬉しそうな表情を見せた。



「ありがとうございます。でも……」



「でも?」



「プレゼントや場所より、田中さんと一緒にいられることが一番嬉しいです」







 しかし、俺の完璧主義はそう簡単には収まらなかった。



 翌日、俺は市内の雑貨店を回ってプレゼントをリサーチしていた。



「文学部だから、万年筆? いや、実用的すぎるか」



「アクセサリー? でも趣味が分からない」



「本? でも読書家の彼女に何を選べば……」



 三時間かけて十件の店を回ったが、決められなかった。



《Warning:選択肢過多による決断麻痺が発生しています》







「田中くん、また悩んでますね」



 研究室で高橋先輩に声をかけられた。



「はい……恋人の誕生日プレゼントで」



「ああ、そういう時期ですね。で、何に悩んでるんですか?」



「何を贈れば喜んでもらえるか分からないんです」



「田中くん、プレゼントで一番大切なことは何だと思いますか?」



「相手が欲しがっているものを見つけることですか?」



「惜しいですね。正解は『贈る人の気持ちが込もっていること』です」



「気持ちが込もっていること……」



「高価なものや完璧なものより、心を込めて選んだものの方が価値があります」







 俺は静香の趣味をさりげなく調査することにした。



「最近、何か欲しいものはある?」



 図書館での会話中に聞いてみた。



「欲しいもの? そうですね……」



 静香は少し考え込んだ。



「特に思い浮かばないです。必要な物は大体揃ってますから」



 これでは参考にならない。



「趣味で使う道具とか……」



「お菓子作りの道具なら一通りありますし、本も図書館で借りられますから」



 俺の調査は行き詰まった。







「田中先輩、まだ悩んでるんですか?」



 歩美が俺の様子を見て言った。



「ああ……何を贈ればいいか分からない」



「先輩らしいですね。でも、女性の立場から言わせてもらうと……」



「何だ?」



「プレゼントより、一緒に過ごす時間の方が大切です」



「時間?」



「はい。特別な場所に行くとか、特別なことをするとか、そういうことより……」



 歩美は微笑んだ。



「相手のことを想って選んでくれた、その気持ちが一番嬉しいんです」







 その夜、俺は一つのアイデアを思いついた。



「手作り……?」



 静香はいつも手作りのクッキーを作ってくれる。俺も何か手作りで贈れないだろうか?



「でも俺に作れるものなんて……」



 プログラム? いや、それは実用的すぎる。



 料理? クッキー以外は作れない。



 そんな時、研究室の書棚に目がいった。



「そうだ……」







 俺は決心した。プレゼントは本にしよう。ただし、買うのではない。



「手作りブックカバーを作って、中身は……」



 俺は静香がよく読んでいるジャンルを思い出した。古典文学が好きで、特に詩集をよく読んでいる。



「彼女がまだ読んでない詩集を見つけて、手作りのブックカバーをつける」



 これなら俺らしく、そして心がこもっている。







 俺は手芸店で材料を買い、ブックカバー作りに挑戦した。



「布を切って、縫って……」



 不器用な俺には難しい作業だったが、静香のことを思えば頑張れた。



 三日かけて、ようやく完成した。



「不格好だが……気持ちは込もってる」



 薄いブルーの布で作ったシンプルなブックカバー。内側には小さなポケットもつけた。





 静香の誕生日当日、俺は緊張していた。



「おめでとう、静香」



「ありがとうございます」



 俺は手作りブックカバーと詩集を渡した。



「これ……手作りですか?」



「ああ。不器用だから、見栄えは良くないけど」



 静香はブックカバーを手に取り、しばらく見つめていた。



「とても素敵です」



「本当に?」



「はい。田中さんが私のために作ってくれたと思うと……とても嬉しいです」



 静香の目に涙が浮かんでいた。







 その日は特別なレストランでも、豪華なイベントでもなかった。



 俺たちは近くの公園を散歩し、ベンチで詩集を一緒に読んだ。



「この詩、素敵ですね」



「君が気に入ってくれて良かった」



「ブックカバーも、とても使いやすいです」



 静香は手作りのブックカバーを大切そうに触っていた。



「田中さんの手作りなんて、世界で一つだけですね」



「そうだな。俺にとっても、君にとっても」





 その夜、俺は気づいた。



 完璧なプレゼントや豪華なお祝いより、心を込めて作ったものの方が喜んでもらえる。



【誕生日プロジェクト総括】



成功要因:

- 相手のことを考えて選択

- 手作りの温かみ

- 一緒に過ごす時間を重視



失敗要因:

- 完璧を求めすぎる計画立て

- 相手の気持ちより自分の不安を優先



「また一つ、大切なことを学んだな」





「おお、手作りプレゼントか! やるじゃん、優太」



 大輔は俺の成功を素直に喜んでくれた。



「意外と器用なんですね、田中先輩」



 歩美も感心してくれた。



「手作りは気持ちが伝わりますからね。良い判断でした」



 高橋先輩からも評価をもらった。



 しかし一番嬉しかったのは、静香がそのブックカバーを毎日使ってくれていることだった。



「ありがとう、田中さん。大切に使わせてもらってます」



 彼女の笑顔を見ていると、完璧でなくても愛情は伝わるのだと実感できた。



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