恋愛アルゴリズムはバグだらけ!?~完璧主義の俺が恋したらエラー連発な件~

第14話 メモリレーク発見:感情の蓄積

高橋先輩の恋愛相談から一週間後。



 俺──田中優太は、研究室で新たなプロジェクトに取り組んでいた。



「恋愛マッチングAI、ついに着手……」



 画面には複雑なアルゴリズムの設計図が表示されている。



「研究室のみんなの恋愛を効率化できれば……」



 きっかけは、先輩の成功だった。俺のアドバイスで先輩の恋愛がうまくいったことで、研究室の他のメンバーからも相談を受けるようになった。そして俺は思った。



「これをシステム化すれば、もっと多くの人を幸せにできるのではないか?」







【LoveMatch AI System 設計仕様】



入力データ:

- 個人プロフィール(年齢、趣味、性格など)

- 行動パターン(研究室での振る舞い、昼食時間など)

- 過去の恋愛履歴

- 好みのタイプ



処理プロセス:

- 相性度計算アルゴリズム

- 最適なアプローチ方法の提案

- デートプラン自動生成

- コミュニケーション支援



「これで研究室の恋愛問題は全て解決だ!」



 俺は興奮していた。自分の経験を活かして、科学的に恋愛をサポートできる。







「おい優太、また変なことやってんじゃねーの?」



 大輔が俺の画面を覗き込んだ。



「変じゃない。これは革新的な恋愛支援システムだ」



「恋愛支援って……お前、人の恋愛をAIで管理する気?」



「管理じゃない、サポートだ」



「いや、同じだろ」



 大輔は呆れたような表情を見せた。



「お前さ、自分の恋愛はやっとうまくいってるのに、なんで他人のまで管理したがるんだ?」



「みんなが幸せになれるなら……」



「それ、お前が決めることじゃねーだろ」





 昼休み、歩美が俺に話しかけてきた。



「田中先輩、最近また夜遅くまで研究室にいるって聞きましたが……」



「新しいプロジェクトに取り組んでるんだ」



「恋愛マッチングシステムですか?」



「知ってるのか?」



「はい。研究室のみなさんが話してました」



 歩美は少し心配そうな表情を見せた。



「先輩、それって本当に必要なんでしょうか?」



「どういう意味だ?」



「恋愛って、システムで解決できるものなんでしょうか?」







 歩美の言葉に、俺は少し考え込んだ。



「でも、俺の経験をシステム化すれば……」



「先輩の経験は貴重です。でも、それは先輩と山田さんだからうまくいったのかもしれません」



「つまり?」



「他の人にとって最適解が同じとは限らないということです」



 歩美の指摘は的確だった。



「心理学的に言うと、恋愛には個人差が大きすぎて、汎用的なシステムは困難です」



「でも……」



「それに先輩、最近山田さんと過ごす時間、減ってませんか?」





 言われてみれば、確かにそうだった。



 このプロジェクトを始めてから、図書館に行く時間が減っている。静香とのデートも、先週はシステム開発を理由に延期していた。



「まずい……」



 俺は慌ててスマートフォンを確認した。静香からのメッセージが3件、未読のままだった。



『お疲れさまです。今日も遅くまで研究ですか?』

『田中さん、体調は大丈夫ですか?』

『無理しないでくださいね』



 罪悪感が胸を締め付けた。







 その日の夕方、俺は図書館へ向かった。



「静香……」



「あ、田中さん。お疲れさまです」



 静香は相変わらず優しく微笑んでくれたが、どこか疲れているような気がした。



「最近、忙しそうですね」



「ああ……新しいプロジェクトで」



「そうですか」



 会話が続かない。以前のような自然な流れがない。



「あの……今度の土曜日、時間ある?」



「土曜日……」



 俺はスケジュールを思い浮かべた。システムの実装予定が入っている。



「実は、システム開発で……」



「そうですか。分かりました」



 静香の表情が少し曇った。







 翌日、先輩から嬉しい報告があった。



「田中くん、彼女と付き合うことになりました」



「本当ですか!」



「はい。田中くんのアドバイスのおかげです」



 しかし、俺の反応は以前ほど純粋な喜びではなかった。



「それで、例のシステム開発はどうですか?」



「順調に進んでます。先輩の成功例もデータに組み込んで……」



「田中くん」



 先輩が真剣な表情になった。



「システム開発も大切ですが、山田さんとの時間も大切にしてください」



「え?」



「最近の田中くん、少し前の完璧主義に戻ってるような気がします」





 その夜、俺は一人でシステムのテストを行っていた。



「データを入力して……相性度を計算して……」



 しかし、結果に違和感があった。



 例えば、俺と静香の相性度は75%。歩美との相性度は82%。



「おかしい……」



 数値的には歩美の方が高いが、実際には静香との関係の方がうまくいっている。



「システムのバグか?」



 俺はコードを見直したが、論理的な問題は見つからなかった。





「よう、優太。また徹夜か?」



 大輔が夜遅くに研究室にやってきた。



「システムの調整をしてるんだ」



「システムより、山田さんとの関係を調整した方がいいんじゃね?」



「関係?」



「お前、最近山田さんと会ってないだろ」



 俺は答えられなかった。



「恋愛システム作るより、恋人と時間過ごせよ」



「でも、このシステムが完成すれば……」



「完成したら何だ? お前の恋人がいなくなってるかもしれないぞ」



 大輔の言葉に、俺は愕然とした。





 翌日、俺の机に小さな封筒が置かれていた。



 静香の字で「田中さんへ」と書かれている。



『田中さんへ



最近お忙しそうですね。新しいプロジェクトが成功することを祈っています。



ただ、少し寂しく感じています。

以前のように、一緒に時間を過ごせる日が来ることを楽しみにしています。



体調に気をつけてください。



山田静香』



 手紙を読んで、俺の胸が痛んだ。



「俺は何をしているんだ……」





 その日、俺は全てのシステム開発を中止した。



「まず、静香に謝らなければ」



 図書館に向かう途中、俺は自分の行動を振り返った。



 恋愛マッチングAIを作ろうとして、一番大切な人との関係を疎かにしていた。



「本末転倒だ……」





「静香、手紙をありがとう」



「田中さん……」



「俺は間違っていた。システムを作ることに夢中になって、君との時間を大切にしていなかった」



 静香は静かに俺の話を聞いてくれた。



「君が一番大切なのに、それを見失っていた」



「田中さん……」



「土曜日、時間を作る。一緒に過ごしてくれる?」



 静香は微笑んだ。



「はい。喜んで」







 その夜、俺は恋愛マッチングAIプロジェクトを正式に終了した。



【LoveMatch AI System - プロジェクト終了報告】



終了理由:

- 開発者自身の恋愛関係に悪影響

- 恋愛の個人差を考慮したシステム設計の困難性

- システム化できない感情的要素の重要性



教訓:

- 技術で解決できない問題がある

- 目の前の大切な人を優先すべき

- 完璧なシステムより不完璧でも真心のこもった関係



「また一つ、大切なことを学んだ」





 土曜日、俺と静香は久しぶりにゆっくりとした時間を過ごした。



「システム開発、中止したんですね」



「ああ。君との時間の方が大切だから」



「私は田中さんの研究を応援してますが、バランスも大切だと思います」



 静香の言葉は、いつも的確だった。



「これからは、仕事も恋愛も、バランス良く」



「はい。それが一番だと思います」



 俺たちは手をつないで公園を歩いた。システムでは計算できない幸福感があった。





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