仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」
Scene2 衝突
交差点。
ヘッドライトが雨粒を反射させ、無数の白い線が闇の中を切り裂いていた。
――その光の中に、ひとつの影があった。
バイクに跨る青年。
ヘルメットの隙間から覗く横顔は、まだ二十歳そこそこのあどけなさが残っている。
濡れた黒髪が頬に貼りつき、細身の体は夜の寒さに小さく震えていた。
ステージで輝くはずのその顔――人気急上昇中のアイドル、黒瀬蓮が、こんな夜道でひとりきりだった。
「嘘だろ……なんで、こんなところに……!」
ハンドルを握る三島は、瞬間的にブレーキを踏み込んだ。
しかし、遅すぎた。
濡れたアスファルトの上で、タイヤが悲鳴を上げて空転する。
車体がぶれる。視界が揺れる。
雨とライトが入り混じり、世界が歪んだ。
「……くそっ!」
鈍い衝撃。
フロントガラスに何かが叩きつけられる音。
バイクが弾かれ、青年の身体が宙を舞った。
雨の中に放り出された彼が、アスファルトに叩きつけられる。
その衝撃の音が、やけに鮮明に耳の奥へ突き刺さった。
世界が止まった。
ただ、雨の音とエンジンのうなりだけが残る。
三島はハンドルを握ったまま、息を呑んだ。
指先が白くなるほどハンドルを強く握りしめ、胸の奥が熱く震える。
彼は、震える手でドアを押し開けた。
冷たい雨粒が頬を打つ。高価なスーツの裾が、濡れた路面で重く張りついた。
闇の中へ駆け寄る。
倒れている青年のもとへ。
「……おい! 蓮……! 黒瀬……!」
三島はその身体を抱き起こした。
黒いライダースーツが血で濡れている。
額の髪が泥と雨でぐしゃぐしゃに乱れていた。
閉じた瞳は動かない。だが、耳を近づけると――かすかに呼吸の音がある。
その胸が、わずかに上下しているのを見て、胸の奥で何かが崩れ落ちた。
――生きてる。生きてる……。
しかし、次の瞬間。
三島の視線は、周囲を素早く彷徨わせた。
人影はない。カメラも、スマホを構える誰かもいない。
(このまま通報すれば……俺の立場は終わる。事務所も、野望も、すべて崩れる)
呼吸が荒くなる。胸が締めつけられる。
混乱と恐怖が入り混じり、頭の中で言葉が千々に散っていく。
三島は強く歯を食いしばり、蓮の身体を抱え上げた。
濡れた髪が三島の頬をかすめ、血の匂いが鼻をつく。
「……大丈夫だ……助けてやる……」
自分に言い聞かせるように呟くと、
彼は誰もいない夜の闇へと歩き出した。
ヘッドライトが雨粒を反射させ、無数の白い線が闇の中を切り裂いていた。
――その光の中に、ひとつの影があった。
バイクに跨る青年。
ヘルメットの隙間から覗く横顔は、まだ二十歳そこそこのあどけなさが残っている。
濡れた黒髪が頬に貼りつき、細身の体は夜の寒さに小さく震えていた。
ステージで輝くはずのその顔――人気急上昇中のアイドル、黒瀬蓮が、こんな夜道でひとりきりだった。
「嘘だろ……なんで、こんなところに……!」
ハンドルを握る三島は、瞬間的にブレーキを踏み込んだ。
しかし、遅すぎた。
濡れたアスファルトの上で、タイヤが悲鳴を上げて空転する。
車体がぶれる。視界が揺れる。
雨とライトが入り混じり、世界が歪んだ。
「……くそっ!」
鈍い衝撃。
フロントガラスに何かが叩きつけられる音。
バイクが弾かれ、青年の身体が宙を舞った。
雨の中に放り出された彼が、アスファルトに叩きつけられる。
その衝撃の音が、やけに鮮明に耳の奥へ突き刺さった。
世界が止まった。
ただ、雨の音とエンジンのうなりだけが残る。
三島はハンドルを握ったまま、息を呑んだ。
指先が白くなるほどハンドルを強く握りしめ、胸の奥が熱く震える。
彼は、震える手でドアを押し開けた。
冷たい雨粒が頬を打つ。高価なスーツの裾が、濡れた路面で重く張りついた。
闇の中へ駆け寄る。
倒れている青年のもとへ。
「……おい! 蓮……! 黒瀬……!」
三島はその身体を抱き起こした。
黒いライダースーツが血で濡れている。
額の髪が泥と雨でぐしゃぐしゃに乱れていた。
閉じた瞳は動かない。だが、耳を近づけると――かすかに呼吸の音がある。
その胸が、わずかに上下しているのを見て、胸の奥で何かが崩れ落ちた。
――生きてる。生きてる……。
しかし、次の瞬間。
三島の視線は、周囲を素早く彷徨わせた。
人影はない。カメラも、スマホを構える誰かもいない。
(このまま通報すれば……俺の立場は終わる。事務所も、野望も、すべて崩れる)
呼吸が荒くなる。胸が締めつけられる。
混乱と恐怖が入り混じり、頭の中で言葉が千々に散っていく。
三島は強く歯を食いしばり、蓮の身体を抱え上げた。
濡れた髪が三島の頬をかすめ、血の匂いが鼻をつく。
「……大丈夫だ……助けてやる……」
自分に言い聞かせるように呟くと、
彼は誰もいない夜の闇へと歩き出した。