仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」

Scene28 優香と璃子の本音

夜のカフェ。
人気の少ない店内で、柔らかな照明がふたりのテーブルを静かに照らしていた。

「……で、私に聞きたいことって何かしら?」
向かいに座る璃子は、笑みを浮かべながらストローでアイスコーヒーをかき混ぜる。
カラン、と氷の音が静寂に響いた。

優香は膝の上で指を組み、視線を伏せてから、真っすぐ璃子を見つめる。

「……昨日、控室で……大地くんに何をしたんですか?」

璃子の眉がわずかに揺れた。
「何を、って……少し昔話をしただけよ。」

「……違います。」
優香の声は微かに震えていた。
「彼の顔……見たんです。あんな表情、初めてで……怖かった。」

璃子は肩をすくめて微笑む。
「そんなの、あの子の問題でしょ?」

「関係あります。私は……彼のマネージャーだから。」
優香の瞳に、揺るぎない光が宿る。

「ふふ……マネージャー、ね。」
璃子の目元が少し細まり、探るような視線が向けられた。

胸の奥に、小さな苛立ちが灯る。
「……璃子さん。あなたと大地くんは……どんな関係だったんですか?」

その瞬間、璃子の微笑がわずかに硬くなる。
だがすぐに、からかうような表情へ戻った。

「どうって……彼はアイドル、私は女優。共演者よ。それ以上、何が?」

「……彼を守りたいんです。」
優香の言葉は真っすぐだった。
「だから……隠していることがあるなら教えてください。お願いします。」

璃子の瞳がかすかに揺れる。
微笑の奥で、何か痛む気配が走った。

「……守る、ね。」

優香は続ける。
「……あの人は苦しんでいます。何か抱えているのに、何も言わない。
 ……私じゃ、ダメなんですか?」

璃子は息を呑むように目を伏せた。
そして――ふっと笑う。
その笑みには、滲むような痛みがあった。

「……そう。あなた、本当にあの子が好きなのね。」

優香は言葉を飲み込みながら、ただ頷く。
その瞳には揺れも戸惑いもあるが、確かな想いが宿っていた。

璃子はグラスを置き、静かに息をつく。
そして、まっすぐ優香を見据えた。

「……でもね。覚悟しておいたほうがいいわ。」

「……え?」

璃子の瞳がわずかに潤み、声が震える。

「――あの子は……宅麻大地なんかじゃない。」

優香の胸が、音を立てて跳ねた。
「……な、何を……?」

璃子は言葉を紡ぐように、静かに続ける。

「……蓮よ。黒瀬蓮。
 私が昔、マネージャーをしていた……たったひとりの、大切なアイドル。」

優香の呼吸が止まった。
耳鳴りがして、全身から力が抜けていく。

「……嘘……でしょ……」

「私はあの子と夢を追っていた。
 一緒にステージに立つのが夢だったの。
 あの子は……私のすべてだった。」

璃子は苦しげに目を伏せる。

「でも、ある日突然、姿を消したの。何の言葉もなく……。
 ……なのに今、まるで何もなかったように、あなたの隣にいる。」

静かな声だった。
けれど、その奥にある痛みは、あまりにも深かった。

「……彼は“蓮”なの。
 私が愛した、あの人なの。」

沈黙がふたりの間に落ちる。
カフェのBGMさえ遠く霞んでいく。
優香はただ、その言葉の重さだけを胸の奥で受け止めていた。

 
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