【漫画シナリオ】知らない御曹司の求婚、受けてみました。

【第6話】そばにいること

〇和室
(夏休み開始から2週間――)
うみ、ハチマキを巻いて参考書山積みで黙々と勉強中。
窓から入る風と蝉の声。
うみ(結局あれから一度も敷地を出てない…)(椿さんの“外出禁止”を守ってるみたいでちょっと悔しい…)
  (でも…)
うみが椿と過ごす和室での時間を思い出す。
うみ(でも休みの日に椿さんと一緒に過ごす和室での時間は穏やかで、嫌いじゃない)

そのとき、スマホに着信。糸花から。
うみ「もしもし?」
糸花≪うみ~勉強飽きた~≫
だらっとした糸花の声に思わず笑ううみ。
糸花≪一緒に図書館で勉強しよ~≫
うみ「今から? いいけど…」
糸花≪やったー!≫≪あ、家庭のある方を遅くまで引き止めないから安心して≫
うみ「か、家庭…?」
糸花≪家庭でしょ。この旦那持ち≫
うみ「旦那なんて感じじゃないけどね…」
糸花≪じゃあなに? パトロン?≫
うみ(パトロンって…)※呆れ笑い
うみ(椿さんってあたしにとって何なんだろ…)

うみ、自室で外出する準備をしながら糸花と電話。
うみ「優しいよ、椿さん」
糸花≪外出禁止を言い渡すような危険因子なのに?≫
うみ「まあそれはなあなあにさせたから…」※苦笑い
糸花≪ふーん。じゃあ旦那とは結構仲良くやってるの?≫
うみ「まあそれなりにはね。今は頼らないといけない相手だし」
電話しながら家を出て門の前まで行くうみ。

うみ「じゃあ今から出るから」
そう言って門のノブを掴む。
うみ「…うん?」
 「なんか門開かないんだけど!?」
ガタガタとノブをひねるがびくともしない門。
糸花≪え? 旦那に閉じ込められた?≫
うみ、顔面がサーっと青ざめる。
糸花≪あんたの“優しい”旦那、やばいね~≫
うみ「…」
糸花≪出かけられるようになったら教えて≫
電話が一方的に切られる。
うみ「ちょっと!!」
椿に急いで電話をかけるうみ。

〇椿のオフィス
椿、大きなデスクで書類にサイン中。
スマホに着信。
画面『うみ♡』

椿「うみちゃん! どうしたの? 俺の声聞きたくなった?」
仕事中の椿は嬉しそうに電話に出る。
うみ≪椿さん! 門が開かないんですけど!≫
うみの怒号がスマホ越しに飛んでくる。
椿の顔がすっと暗くなる。
椿「・・・」
一瞬の沈黙。

〇門前・うみ
椿≪…外出しようとしたの?≫
うみ「そうですよ!!」

〇椿のオフィス
椿「悪い子だね~、出ちゃダメって言ったじゃん」
椿、椅子からゆっくり立ちあがり伸び。背中だけ見せる。

〇門前
うみ「何かしたんですか!?」
うみ顔がドアップで青ざめる。
背景に「ゾワッ」エフェクト。

〇画面分割 右:椿のオフィス 左:門前
椿「門の鍵、俺しか開けられないように設定した」
うみ「はああああ!?」※大声

〇門前
うみ「…それ、軟禁って言うんですけど」
椿≪そうなの? 知らなーい≫
うみ「とにかく今すぐ帰ってきてください!!!!!!」
大声で言って、ガチャ切り。

〇1時間後・玄関
うみ、腕組みしてイライラと待機。
玄関のドアが開く。
スーツ姿の椿と、その隣に隆音。
椿はなんだかいじけたような顔。

隆音が椿の後頭部をガシッと掴んで強制的に頭を下げさせる。
隆音「すみませんでした!」
ぎょっとするうみ。
隆音「ほら、椿さま、謝ってください」
椿「…ごめんなさい」
うみ、拍子抜け。
隆音が顔を上げる。

隆音「うみさま、椿さまが大変申し訳ありませんでした」
  「この常識外れの男、何度か私も調律しようとしてるんですが、根本が曲がっていてどうにも…」
うみ(なんかめっちゃ口悪くない!?)
隆音「椿さまがまた何かやらかしたら私におっしゃってください。根性叩き直しますから」
うみ「分かりました…?」
隆音「では私はこれで」
隆音、一礼して颯爽と去る。

〇リビング
うみ、仁王立ちして腕を組む。
椿、目を合わせずモジモジ。
うみ「椿さん」
椿「はい…」
うみ「なんでこんなことしたんですか」
椿「だって…」
椿がシュウウと小さくなってソファに座る。
椿「うみちゃんが外に出て何するか心配だったんだもん…」
椿、そっぽを向く。
うみが椿の隣に座る。

うみ「こんなことしたらダメだと思いませんでした?」
椿「それよりうみちゃんがどっか行かないことが重要だった…」
うみ「人の自由を奪ったらダメなんですよ」
椿、うみから目を逸らしたままゆっくりとうなずく。
椿「隆音にもそう言ってたっぷり叱られた…」
しょぼくれてる椿。

うみ、少し表情を緩める。
うみ「椿さん」
椿「…」
うみ「あたし、どこにも行きません」
椿、顔上げてうみを見る。切なそうな目。

うみ「そりゃもちろんあたしも社会生活を送ってる人間なので、外出はしますよ。外出禁止なんて無理ですもん」
うみ、椿の手をそっと握る。
うみ「でもね」「あたしの帰る場所はここしかないんです。どれだけ椿さんが心配したとしても、最後には必ずここに戻ります」
椿「本当…?」
うみ「だから外で何するかなんて心配しないでください。あたしなんて勉強しかしてないんですから」
うみ、太陽のような笑顔を椿に向ける。
椿、目を見開いて、そっとうみを抱き寄せる。

椿「うみちゃん、本当に大事なの。どこにも行かないで…」
うみ「行きませんよ」
椿「頭…撫でてもらってもいい?」
子供みたいに言う椿に、うみは守ってあげたい気持ちになり、椿の頭を優しく撫でる。

うみ(本当はもっと怒った方が良かったのかも)( だけどあたしはこの人のことを、あたしを大事と言ってくれるこの人を、あたしも大事にしたいと思ってしまった)
窓の外を見るうみ。夕陽が沈む。
うみ(大学卒業したら切ろうと思ってる関係なのに…)(心の中に、温かい情みたいなものが少しずつ沸き始めていた)
2人の影が重なり合う。
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