取引先のエリート社員は憧れの小説作家だった

第19話 大失態

──その日私は、仕事の疲れのせいか、とんでもない失態をやらかしてしまった…

◇ ◇ ◇

やっと、やっと、そういうシーンがない短編小説を書いた。

私が書いたのは……バスケ部のエースの男の子とキャプテンの男の子の友情物語だった。

それはほぼ実話で、私の学生時代の男子バスケ部はその二人がとても仲が良くて、チームの雰囲気もすごく良かった。

そこに、三角関係という設定を入れてみて、二人が同じ女の子を好きになってしまうというストーリー。

自分の今の年齢とは合わない内容だけど、経験した事が一番書きやすくて……

青春、友情、恋愛をメインにしていた。

それを橘さんに見せたら、

「ありきたり。展開がすぐわかる。つまらない。」

一刀両断された……。

自分なりに一生懸命書いたからショックだった。

部屋で凹んでる時、三浦さんからメッセージがきた。

『小説書けましたか?』

三浦さん……

まだ高校生なのに、大人っぽくて、私の方がかなり年上なのに、気にかけてくれている。

このストーリー、三浦さんならどう思うだろう。

『短いストーリーですけど書きました!見てもらってもいいですか?』

他の人の意見も聞きたかったから、三浦さんに見せに行くことにした。

◇ ◇ ◇

次の休みの日、お昼に少しだけ会う約束をした。

三浦さんに指定された駅の近くのカフェ。

私は用意した小説をバッグに入れて、カフェに早く着いて、小説を読んで時間を潰していた。

暫くすると、三浦さんが来た。

「待たせてごめん!」

全力で来たのか、息を切らして汗をかいていた。

若さが溢れている……!

「いえ、今日はありがとうございます!時間を下さって」

「俺が見たかったんだよ」

三浦さんの優しい笑顔。

年下だけど私が敬語で三浦さんはタメ口。

でも私はまだまだ未熟者で……賞を取った彼は尊敬してるし、この方が落ち着く。

「早速だけど見てもいい?」

「はい。短編で、他の作家さんからはダメ出しされました……」

「え?他の作家??」

あ!これは秘密にしよう……

「あ、間違えました。小説投稿サイトの投稿者のグループがあって……そこのメンバーの人に厳しく言われたんです」

「どのサイトでどのアカウント??」

無理、無理、R18

「あ、それよりこれです!見て感想やアドバイスください!」

頭を下げて印刷した小説を渡した。

三浦さんはそれを読み始めた。

暫くすると──

「神谷さんって……こういうストーリー書くんだね……意外」

「え?そうですか?」

「設定とか……性描写とかあるから」

───え??

私は三浦さんから紙を奪い取った。

それは………

橘さんに言われて作った小説だった。

スーッと血の気が引いた。

なんてものを…なんで私はこれを持って来たの!?

……恥ずかしくて、死にそうだった。

「ごめんなさい!!間違えました!!」

三浦さんはそこまで動揺してなかった。

「意外だったけど、引き込まれたよ。流れもスムーズだし、心理的な描写が多いから、そんなに露骨な感じもしないし。」

いやでも高校生の子に見せるようなものじゃない!!

「すみません……出直します……」

居ても立っても居られなくて、そのままカフェを出ようとした。

「待って!まだ最後まで読んでない!!」

三浦さんが私の道を塞いだ。

「こんなの恥ずかしくて見せられないです……」

「恥ずかしくない!これも小説だよ!」

そんな純粋で必死な目で見られると……

断れず……

「では、どうぞ……」

私はそれを渡した。

その時、スマホに着信があった。

橘さんからだった。

『今どこにいる?話したい事がある』

え、話したい事って……?

私は、その小説を読まれる恥ずかしさと、橘さんの話したい事が気になって、その日は帰ることにした。

「中途半端で申し訳ありませんでした!」

そのまま走り去って家に向かった。

その途中、今度は三浦さんからメッセージが。

『小説の紙忘れてるよ』

──最悪だった……。

あー!!

心の中で叫んだ。

他の人に見られてしまうなんて!!

なんたる失態!!

でも……ちゃんと読んでくれた。

そういうストーリーでも……。

そっちの方が意外だった。

『今度また取りに行きます!申し訳ありませんでした。』

それを送信。

そのまま気持ちが沈んだままマンションに帰り、橘さんの部屋に行った。

インターホンを押すと

「鍵渡したんだから自分で開けて入って来て」

と言われた。

でも、打ち合わせしてる時もあるだろうし、そうもいかない……。

橘さんの部屋の鍵を合鍵で開けて、そっと入ると……

書斎にいた。

「どこ行ってたの?」

う……言いにくい……

嫌な予感がするから黙っておこう。

「ちょっと昔の友達と会ってまして…」

「女?」

「はい、女です」

やはり言えない……

真面目な理由でも、嫌がられそう。

「話なんだけど、コンテストに作品応募してみないか?」

「え、コンテスト!?」

「まあ、とりあえずコンテスト向けに作ってみる練習」

コンテスト……

一体どんなストーリーを……?

「ジャンルが指定されてるのもあるし、とりあえず調べていこう」

「はい……」

この前、小説家としてじゃない俺を見て、と橘さんに言われて戸惑ったけど、今日は小説家モードだ。

待たせている以上、何か、結果が欲しい……!

「わかりました!私頑張ります!!」

「お前の夢を叶えないと、俺の願いが叶わないからな……」

チクリと胸が痛んだ。

とにかくやるしかない!

私また夢にもう一歩踏み出してみることにした。
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