渋谷少女A続編・山倉タクシー

警察に通報しよう

「よし」とばかり山倉がプロムナードへと降りる。すぐに「ああ、あった。あった。かーっ、重い。これは5キロのダンベルだ。しかも鎖と手錠まで付いてやがる。こんなものを括りつけて…」と絶句したあとで我々のもとへと戻って来た。「いやあ、まったくもう、こんなことがあるなんて…しかし田中さん、あの時の嫌な感じが当たったな」そう云いつつ改めて怯えたままの幼女の姿を見、青たんで口の左上が腫れあがった俺の顔を見た。「殴られたのか」「ああ」そううなずいてからここに来るまでの簡単な経緯を語る俺や、またなぜこんな夜遅くに自分たち2人が河畔を散歩していたのか等を語る女性の話を交互に聞きながら、山倉は何事かを考えている様子。ややあって彼はおもむろに我々にこう云いわたした。「よし、わかった。とにかくさ、今はすぐに警察に通報しよう。この不始末をその男らが放置する筈がない。おっつけここに戻って来るだろう。だから今はその…危険だ。(警察に通報しても)いいですね?」と女性に念を押す。「はい」とうなずく女性、元より私に異論はない。山倉の状況判断をさすがだといまさらのように思う。確かにダンベルやら複数の証人を放置して男らがこのまま引き下がる筈がなかったのだ。ベルトホルダーからスマホを取り出すと山倉は躊躇なく110番をした。自分の身分を明かし要点をかいつまんで伝えてからパトカーの緊急派遣を要請する。
「了解しました。白髭橋西詰交差点から100メートルほど行った辺りですね。直ちにパトカーを向かわせます」スピーカー機能を使って話す相手の声は難聴の私であっても明瞭に聞き取れた(難聴なのには分けがあった。これは後述しよう)。これで安心と思いきや一台の車が警察よりも早く到着した。山倉のタクシーを反対車線から通り超したあとその先の歩行者信号のある脇道でUターンをしタクシーのうしろにピタリと停車する。「やつらだ。車の形でわかる」山倉が警告する。
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