婚約者のフリをしてください、専務~冷徹御曹司の溺愛は嘘から始まる~
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「グランフィオーレのPR撮影ですか?」
主任から渡された企画部からの書類に私は首を傾げた。
当社のホテル内に併設されたブライダル施設、グランフィオーレのPR撮影は昨年に行われており、その動画がホームページで公開されている。
どうして今? 新しくするには少し時期が早い気がする。
すると、主任は苦々しい顔をした。
「このモデルの男が恋人へのDVとストーカーで捕まったんだよ。そんな奴を起用した動画をのせるわけにはいかないだろ」
「ああ~……なるほど」
私は大きく頷いた。それは変更しなくてはいけない。
時々、こうした事案は起きる。特にモデルさんは無名であってもこのブライダルのイメージだ。結婚をイメージさせるのに、そのモデルがストーカーやDVなどもってのほかである。
「ここの最後に専務のコメント動画も入れる。使いまわしはしたくないからな。企画部が練ってくれた案で撮影をしようと思う。広報部も撮影に同行して専務のサポート、撮影の様子をSNSに乗せたり、ホームページや広報誌に載せる等をするのだが……」
「それを私に?」
「……というか、専務自ら桃瀬さんをご指名だ」
「え、私をですか!?」
綾斗さんからの指名?
ドキッとして言葉が続かない。
なんで私を……?
「専務が同行する広報は桃瀬さんがいいと仰っている。以前仕事をした時にやりやすかったからという理由らしいが……」
主任が探るような目をしてこちらを見てくる。
それもそうだろう、専務が仕事をする社員を指名してくるなど今までになかった。私的な感情で仕事相手を選ぶなんてほぼない人である。主任が訝しがるのも無理はない。
「あ~……、そういえば以前一緒にお仕事をさせていただいた時に、とても和やかにしかもスムーズに作業が進んだのでそういう経緯もあるんでしょうかね……」
苦し紛れの言い訳になってしまう。
嘘ではないが、そんなの他の社員と変わりないはずだ。だとしたら、どうして私を指名してきたんだろう。
偽の婚約者の件で話しやすくなったとか親近感がわいたとか? ……綾斗さんがそんな私情で仕事相手を決めるようには見えないが……。
困惑したまま、私はその仕事を引き受けた。
気持ちを忘れるためには極力関わらない方が良い。でも、仕事となるとそういうわけにはいかない。けれど、綾斗さんが私を指名してくるって、なんだか胸が苦しくなってしまう。
都合のいい夢を見そうになる。綾斗さんも私と会いたかったのかななんて。
そんなはずはないのにね。
ああ、だめだ茉白! ここは仕事と割り切って、広報としてサポートしないと。専務のため、会社のため!
そう気合を入れていると、さっそく綾斗さんから撮影について打ち合わせがしたいと連絡があった。
本来ならこちらから打ち合わせの日時の連絡をすることになっているので凄く焦った。
「申し訳ありません、私からご連絡するべきの所……」
指定された小会議室で、綾斗さんは一人で私を待っていた。私は室内に入るなり、深く頭を下げた。
「いいから。君にそんな猶予を与えず連絡したのは俺なんだから気にするな」
確かに、主任に承諾をしたあとすぐに連絡があったので綾斗さんの言う通りではある。私は急いで綾斗さんの前に座り資料を並べた。
「スケジュールについては企画部からご提案があった通りで、広報からは撮影中の裏側をSNSに……」
私は資料を見ながら説明を始める。
綾斗さんはそれをふんふんと聞きながらも、時々何か言いたげな視線をよこしてきた。私はそれに気が付かないふりをする。
「ご不明な点はございますか?」
「いや、当日のことは桃瀬に任せる」
「ありがとうございます」
綾斗さんの言葉に私の心がほわっと温かくなる。先日注意を受けたばかりだったので、信頼して任せてもらえるのは嬉しいことである。
「桃瀬、どうして俺がお前を指名したかわかるか?」
「え……、どうしてでしょうか」
これは本当に分からない。キョトンとすると、綾斗さんは立ち上がりながらふっと笑みを浮かべた。
「じゃあ、これはお前への宿題にする」
「えっ、宿題!? あ、専務……!」
綾斗さんは言うだけ言って、先に会議室を出て行ってしまった。
宿題って、どういうこと?
綾斗さんが私を指名した理由なんて、綾斗さんしかわからないんじゃないの……?
私は一人、頭を抱えた。