危険すぎる恋に、落ちてしまいました。2【完結】
1.新学期
春の朝は、どうしてこんなにも胸をそわそわさせるんだろう。
薄桃色の空気が街にとけこんで、街路樹の桜がひらひらと風に乗っていた。
高校二年生になり、初めて椿くんと一緒に登校する朝。
「わ、やば……っ!」
ほとんど跳ね起きるようにして布団から飛び出す。
スマホの画面には、起床予定時刻をとっくに過ぎた数字が表示されていた。
鏡の前でばたばたとメイクを整えながら、胸がぎゅっと締まる。
(今日から“彼女”としての初登校なのに……寝坊って……終わった……)
そう思いながらも、手鏡を覗いたとき。
まつげはいい感じに上向きだし、リップもうるっとしてるし、今日は制服のリボンも可愛い。
大丈夫、なんとかなる。なんとかしないと。
美羽は息を弾ませながら、最寄り駅へと駆けだした。
春の風がスカートの裾をさらっていく。
陽ざしは柔らかいはずなのに、心臓だけは夏みたいに熱い。
(待ち合わせして、椿くんと一緒に学校に行く……
そんな当たり前みたいなことが、こんなに夢みたいだなんて……)
駅前の角を曲がったとき、
ぱっと視界がひらけて、人ごみの向こう側に——
彼がいた。
壁に片肩を預け、赤いブレザーの上着を軽く脱ぎかけたまま、長い脚を組んで立つ姿。
春の風に揺れる黒い前髪。
光に縁取りされた横顔。
北条椿。
黒薔薇学園の“王”。
そして——いまは、私の彼氏。
(……いや、ほんとに……私の……彼氏……?)
自分で思って、足が止まるほど顔が熱くなった。
きらり、と椿のまつげが動いた。
どうやら、美羽の視線に気づいたらしい。
ゆっくりとこちらへ目を向けると、
眉間にわずかにしわを寄せて、
椿はひとこと。
「……美羽。遅ぇ。」
声が低くて、ふわっと耳をくすぐる。
「ご、ごめん椿くん!!ちょっと寝坊しちゃって……!」
美羽は慌てて走り寄る。
恥ずかしさで胸がギュッとなったけれど、
それでも彼と目が合うだけで心臓が忙しくなる。
椿は無言で一歩近づくと——
美羽の頭に、大きな手をぽんっと置いた。
「そうか。」
いつもの不器用な優しさを混ぜた声で、
そのまま手ぐしで、くしゃりと撫でてくる。
「ちょっ……寝癖直したばっかりなのに!」
「寝癖でもなんでも可愛いんだから問題ねぇよ。」
なんでもないみたいに言ったその一言で、
美羽の胸が一気に沸騰した。
(え、ちょ……ちょっと待って……
何その自然な破壊力……!?)
と思っている間に、椿はすっと手を伸ばし——
美羽の手をつないだ。
「ほら。行くぞ。」
「えっ……わ……」
指と指が絡む。
掌の温度が重なって、なにかがじわっと体に広がる。
学校までの道はいつもと変わらないはずなのに、
今日は全部が光って見えた。
舗道も、空も、桜の影さえも。
(ど、どうしよう……初日からこれって……
本当に……私の心臓もつ?
無理じゃない??)
美羽は顔が熱いまま、
隣を歩く椿をちらっと見る。
すると椿が不意に視線を落としてきた。
「……そんな真っ赤にして、何考えてんだよ。」
「っ……な、なんでもないっ!」
「ふーん。俺と手つないだだけでこれか。」
「い、言わないでよ!!恥ずかしいから!!」
椿の口元がかすかに緩む。
それは普段ほとんど見せない、ほんのわずかな微笑み。
春の風がひゅうっと吹いて、
髪が揺れ、桜がゆらいだ。
その全部の真ん中で、
椿の声がとても近くて。
「……そーいや美羽、」
「え?何、椿くん?」
「…おはよ。まだ言ってなかった。」
「っ——!!?」
世界が一瞬止まる。
心臓が胸の奥で跳ねて、
桜の花びらが視界の端を流れていく。
(こんなの……
高校二年生の春、始まって早々……
私、死んじゃう……)
でも。
椿の隣を歩ける幸せが、
胸をふわっと満たしていく。
こんな春が来るなんて、信じられない。
でも、私は今日から本当に——椿くんの彼女なんだ。
そう思えたら、
涙が出そうになるほど嬉しかった。
薄桃色の空気が街にとけこんで、街路樹の桜がひらひらと風に乗っていた。
高校二年生になり、初めて椿くんと一緒に登校する朝。
「わ、やば……っ!」
ほとんど跳ね起きるようにして布団から飛び出す。
スマホの画面には、起床予定時刻をとっくに過ぎた数字が表示されていた。
鏡の前でばたばたとメイクを整えながら、胸がぎゅっと締まる。
(今日から“彼女”としての初登校なのに……寝坊って……終わった……)
そう思いながらも、手鏡を覗いたとき。
まつげはいい感じに上向きだし、リップもうるっとしてるし、今日は制服のリボンも可愛い。
大丈夫、なんとかなる。なんとかしないと。
美羽は息を弾ませながら、最寄り駅へと駆けだした。
春の風がスカートの裾をさらっていく。
陽ざしは柔らかいはずなのに、心臓だけは夏みたいに熱い。
(待ち合わせして、椿くんと一緒に学校に行く……
そんな当たり前みたいなことが、こんなに夢みたいだなんて……)
駅前の角を曲がったとき、
ぱっと視界がひらけて、人ごみの向こう側に——
彼がいた。
壁に片肩を預け、赤いブレザーの上着を軽く脱ぎかけたまま、長い脚を組んで立つ姿。
春の風に揺れる黒い前髪。
光に縁取りされた横顔。
北条椿。
黒薔薇学園の“王”。
そして——いまは、私の彼氏。
(……いや、ほんとに……私の……彼氏……?)
自分で思って、足が止まるほど顔が熱くなった。
きらり、と椿のまつげが動いた。
どうやら、美羽の視線に気づいたらしい。
ゆっくりとこちらへ目を向けると、
眉間にわずかにしわを寄せて、
椿はひとこと。
「……美羽。遅ぇ。」
声が低くて、ふわっと耳をくすぐる。
「ご、ごめん椿くん!!ちょっと寝坊しちゃって……!」
美羽は慌てて走り寄る。
恥ずかしさで胸がギュッとなったけれど、
それでも彼と目が合うだけで心臓が忙しくなる。
椿は無言で一歩近づくと——
美羽の頭に、大きな手をぽんっと置いた。
「そうか。」
いつもの不器用な優しさを混ぜた声で、
そのまま手ぐしで、くしゃりと撫でてくる。
「ちょっ……寝癖直したばっかりなのに!」
「寝癖でもなんでも可愛いんだから問題ねぇよ。」
なんでもないみたいに言ったその一言で、
美羽の胸が一気に沸騰した。
(え、ちょ……ちょっと待って……
何その自然な破壊力……!?)
と思っている間に、椿はすっと手を伸ばし——
美羽の手をつないだ。
「ほら。行くぞ。」
「えっ……わ……」
指と指が絡む。
掌の温度が重なって、なにかがじわっと体に広がる。
学校までの道はいつもと変わらないはずなのに、
今日は全部が光って見えた。
舗道も、空も、桜の影さえも。
(ど、どうしよう……初日からこれって……
本当に……私の心臓もつ?
無理じゃない??)
美羽は顔が熱いまま、
隣を歩く椿をちらっと見る。
すると椿が不意に視線を落としてきた。
「……そんな真っ赤にして、何考えてんだよ。」
「っ……な、なんでもないっ!」
「ふーん。俺と手つないだだけでこれか。」
「い、言わないでよ!!恥ずかしいから!!」
椿の口元がかすかに緩む。
それは普段ほとんど見せない、ほんのわずかな微笑み。
春の風がひゅうっと吹いて、
髪が揺れ、桜がゆらいだ。
その全部の真ん中で、
椿の声がとても近くて。
「……そーいや美羽、」
「え?何、椿くん?」
「…おはよ。まだ言ってなかった。」
「っ——!!?」
世界が一瞬止まる。
心臓が胸の奥で跳ねて、
桜の花びらが視界の端を流れていく。
(こんなの……
高校二年生の春、始まって早々……
私、死んじゃう……)
でも。
椿の隣を歩ける幸せが、
胸をふわっと満たしていく。
こんな春が来るなんて、信じられない。
でも、私は今日から本当に——椿くんの彼女なんだ。
そう思えたら、
涙が出そうになるほど嬉しかった。
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