部長と私の秘め事
「尊さん、ネットあんまり見ないくせに、なんでそういうの知ってるの!」

「涼がダイジェストで教えてくれるんだよ。あいつはネットの毒素を見ても何も動じないから、いい所も悪い所も全部見た上で、面白い部分だけ教えてくれる」

「茶こしみたいですね」

 そう言うと、尊さんは声を上げて笑う。

「人間なんだけど」

 尊さんはツボったのか、プルプル震えながら笑って戻れずにいる。

「あー…………、もう」

 ひとしきり笑ったあと、彼は私を押し倒してキスをしてくる。

「ん……っ」

 柔らかな唇についばまれ、下唇を甘噛みされた私は、鼻に掛かった声を漏らす。

 顔を上げると、尊さんはいたわる目で私を見て頭を撫でてきた。

「朱里、お前さ……」

「……ん?」

 目を瞬かせて返事をすると、尊さんはしばらく私を見つめたまま、その目に複雑な感情を宿す。

「……なに?」

 彼が口を開いて何か言いかけた時――、ピコンと大きめの通知音が鳴り、私はビクッと肩を跳ねさせた。

「……悪い。知らない間に音量ボタンを押してたみたいだ」

 尊さんは起き上がるとポケットからスマホを出し、メッセージを見て静かに息を吐いた。

「週末、ちょっと一人で出かける。たまには中村さんと二人でデートしたらどうだ?」

「え?」

 急にそう言われ、私はなんとなく不自然さを感じた。

「……どうしてですか?」

 心細そうな顔で言ったからか、尊さんはハッとして苦笑いする。

「悪い、言い方がまずかったな。ちょっと野暮用があって出かけるから、家に一人でいてもつまらないだろうし、たまには中村さんと遊んだら、彼女も嬉しいんじゃないかと思って」

「……ん、……そうですね……」

 私が知りたかったのは〝野暮用〟のほうだけれど、尊さんは二回目を言った時もそちらを掘り下げなかったので、聞いちゃいけないのだと察した。

(結婚するって言っても、それぞれの領分があるしね。大切な事なら教えてくれるだろうし、……なんでもないから、教えるほどでもないんだろうな)

 自分に言い聞かせた私は、「うん」と頷いてから尊さんに抱きついた。

「……恵とイチャイチャしますからね~。ミト子に嫉妬されても、女の園に入れてあげませんからね~」

「おや、秘密の花園か」

 尊さんはニヤリと笑って私の顎を軽くつまむ。

「うちのお猫様が他の猫の匂いをつけてきたら、一発で分かるからな。無限尻ポンポンの刑に処すから、慎重に遊ぶんだぞ」

「なにそれ卑猥」

「予行練習してみるか?」

「えっ?」

 変な事を言われて顔を上げると、尊さんはニヤッと笑って私の体を抱え込み、横抱きにした。

 そしていわゆる〝お尻ペンペン〟の体勢をとる。

「やぁあっ! この体勢はだめっ! 恥ずかしい!」

 なんとか逃げようと体をくねらせると、尊さんはクスクス笑う。

「尻をプリプリ振るなよ。可愛くてもっと触りたくなる」

 そう言って尊さんは私のお尻を撫でてくる。

「やだっ、やだやだっ! こんな体勢恥ずかし……っ!」

 両手を突っ張らせていた私は、バッと伏せをして、尊さんの手から逃れようとする。

 けれど彼は私の体の下に手を潜り込ませた挙げ句、ワシャシャシャシャと脇腹をこちょばしてきた。

「ひははははははははは! んーっ!」

 私は尊さんの膝の上で悶え、体をクネクネさせて笑ったあと、ダンゴムシのように体を丸めてガードする。

「ほーら、尻ポンポンだ」

 尊さんは悪役のような声を出し、尾てい骨の辺りをポンポンポンポン叩いてきた。

「ううーっ! なんたる屈辱! けしからん!」

 顔を真っ赤にして文句を言うと、尊さんは手を止めてクスクス笑い出す。

「お前、ときどき物言いが武士みたいになるよな」

 そう言われると、盛り上がっていた気持ちがスンッと収まる。

 ムクリと起き上がった私は、真顔で尊さんに尋ねた。

「……なんなんでしょうね? これ。前から言ってた気がします」

「俺としては面白いからいいけど」

「いざという時の彼女の口癖が、武士だったらやじゃないです? ……直したほうがいいのかな」

「喧嘩した時に『切腹しろ!』って言わないなら、いいんじゃないか?」

「ひひひひひ」

 私は笑いながら床の上にドテッと落ち、さらに笑いながらズボンをずり上げる。
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