部長と私の秘め事
「こういう事は、急いでもいい結果にはならない。大切なのは俺が本気だって恵ちゃんに知ってもらう事、信頼を勝ち得る事。初対面でいきなりしてしまうより、何回かデートして俺の為人を知り、安心してからでもいいと思う。……っていうか、むしろそれが普通だし。……ごめん! 俺、夢中になって先走った。……格好悪ぃ……」
頭を下げて謝る涼さんは、まるで悪戯しているのを見つかった子供のようだ。
それがおかしくて、私はクスクス笑う。
「謝る事ないじゃないですか」
「恵ちゃんがそう思ってくれるならいいけど」
彼は安心したように息を吐き、私を抱き締めて脚を絡めてくる。
胸板に頬を押しつけた私は、涼さんのぬくもりを直に感じてそっと頬を染めた。
「……私、こうやって男性に抱き締められて寝るの、初めてです」
「そう? 恵ちゃんの初めて嬉しいな」
涼さんの返事を聞き、私は静かに目を閉じる。
ほんの一瞬だけ「俺もだよ」という返事を期待してしまった。
でもそんな訳はない。こんなに素敵な男性なら、ベッドインした女性は数え切れないぐらいいるだろう。
それも、私よりずっと女性らしい洗練された人だ。
(……顔の分からない女性に嫉妬するなんてバカだ)
私はキュッと唇を引き結び、静かに息を吐く。
すると涼さんはトントンと背中を叩き、私の額に唇を押しつけた。
「……嫉妬してくれてる?」
鋭く察され、私は無言で息を呑む。
「……初めてじゃないのは事実だ。でも、恵ちゃんを最後の女性(ひと)にしたい。今後、恵ちゃん以外の女性を見ないし、抱かない。……だから、君を俺にちょうだい」
「っ~~~~!」
ストレートな言葉を聞いた瞬間、ズキュンッと胸を撃ち抜かれた気持ちになり、ドキドキして堪らない。
(なんなのこの人。こんな恥ずかしい言葉)
心の中で文句を言いかけ、そんな自分をもう一人の自分が叩く。
――嬉しいくせに。
――いつまでも意地を張ってたら、涼さんだって呆れて去っていく。
――せっかく掴んだ幸せを手放したいの?
――朱里みたいに愛されて幸せになる事を、本当は心から望んでいたんでしょ?
もう一人の自分に叱咤され、私は唇を震わせて返事をする。
「……っあ、…………あげ、……ます」
言ってしまった瞬間、「なんて恥ずかしい事を言ったんだろう!」とカーッと赤面し、逃げたくなるのをグッと堪えた。
「うん、ありがとう」
涼さんは嬉しそうに笑い、私を抱く腕に力を込める。
「大切にするね」
その声が本当に嬉しそうで、胸がキュッとなる。
(こんなに大切にされていいのかな)
不安になるけれど、きっと間違えてない。
心配になったら涼さんに確認すれば、彼ならなんでも答えてくれる。
「……大切にしてください。私も大切にします」
思い切って図々しい事を言ってみたけれど、涼さんはニコッと笑って「喜んで」と言っただけだった。
しばらく抱き合ったあと、彼は手を伸ばして照明を落とす。
カーテンは開けたままで、窓の外からは夜間も美しく照らされているシーのライトが、室内にほんのりと挿し込んでいた。
(……夢みたい)
『彼氏なんていなくていい』と言っていたけれど、本当は心から愛してくれる恋人がほしかった。
でもいざ彼氏ができたら性的に求められるのが怖くて気持ち悪くて、すぐに逃げてしまった。
自分でも分かっていた。
幸せになりたい、彼氏がほしい、結婚したいと願っていても、男性に抱き締められる事すら嫌悪感を抱くなら、到底無理な話だと。
(……なのにこの人、スッと私の心に入ってくるんだもんな……)
警戒していたはずなのに、気がついたら普通に話していて、異性として意識し、受け入れてしまった。
以前の私なら信じられないぐらいのスムーズさで、今でも夢でも見てるんじゃないだろうかと思ってしまうほどだ。
「……恵ちゃん、あったかい」
その時、涼さんがかすれた声で言い、また胸の奥がキューッと締め付けられ、むず痒い想いに駆られる。
涼さんは私を抱き締めてそのまま眠るのかと思っていたけれど、身じろぎしてから溜め息をつき、言った。
「……今まできれい事を口にしてたけど、本音を言う」
頭を下げて謝る涼さんは、まるで悪戯しているのを見つかった子供のようだ。
それがおかしくて、私はクスクス笑う。
「謝る事ないじゃないですか」
「恵ちゃんがそう思ってくれるならいいけど」
彼は安心したように息を吐き、私を抱き締めて脚を絡めてくる。
胸板に頬を押しつけた私は、涼さんのぬくもりを直に感じてそっと頬を染めた。
「……私、こうやって男性に抱き締められて寝るの、初めてです」
「そう? 恵ちゃんの初めて嬉しいな」
涼さんの返事を聞き、私は静かに目を閉じる。
ほんの一瞬だけ「俺もだよ」という返事を期待してしまった。
でもそんな訳はない。こんなに素敵な男性なら、ベッドインした女性は数え切れないぐらいいるだろう。
それも、私よりずっと女性らしい洗練された人だ。
(……顔の分からない女性に嫉妬するなんてバカだ)
私はキュッと唇を引き結び、静かに息を吐く。
すると涼さんはトントンと背中を叩き、私の額に唇を押しつけた。
「……嫉妬してくれてる?」
鋭く察され、私は無言で息を呑む。
「……初めてじゃないのは事実だ。でも、恵ちゃんを最後の女性(ひと)にしたい。今後、恵ちゃん以外の女性を見ないし、抱かない。……だから、君を俺にちょうだい」
「っ~~~~!」
ストレートな言葉を聞いた瞬間、ズキュンッと胸を撃ち抜かれた気持ちになり、ドキドキして堪らない。
(なんなのこの人。こんな恥ずかしい言葉)
心の中で文句を言いかけ、そんな自分をもう一人の自分が叩く。
――嬉しいくせに。
――いつまでも意地を張ってたら、涼さんだって呆れて去っていく。
――せっかく掴んだ幸せを手放したいの?
――朱里みたいに愛されて幸せになる事を、本当は心から望んでいたんでしょ?
もう一人の自分に叱咤され、私は唇を震わせて返事をする。
「……っあ、…………あげ、……ます」
言ってしまった瞬間、「なんて恥ずかしい事を言ったんだろう!」とカーッと赤面し、逃げたくなるのをグッと堪えた。
「うん、ありがとう」
涼さんは嬉しそうに笑い、私を抱く腕に力を込める。
「大切にするね」
その声が本当に嬉しそうで、胸がキュッとなる。
(こんなに大切にされていいのかな)
不安になるけれど、きっと間違えてない。
心配になったら涼さんに確認すれば、彼ならなんでも答えてくれる。
「……大切にしてください。私も大切にします」
思い切って図々しい事を言ってみたけれど、涼さんはニコッと笑って「喜んで」と言っただけだった。
しばらく抱き合ったあと、彼は手を伸ばして照明を落とす。
カーテンは開けたままで、窓の外からは夜間も美しく照らされているシーのライトが、室内にほんのりと挿し込んでいた。
(……夢みたい)
『彼氏なんていなくていい』と言っていたけれど、本当は心から愛してくれる恋人がほしかった。
でもいざ彼氏ができたら性的に求められるのが怖くて気持ち悪くて、すぐに逃げてしまった。
自分でも分かっていた。
幸せになりたい、彼氏がほしい、結婚したいと願っていても、男性に抱き締められる事すら嫌悪感を抱くなら、到底無理な話だと。
(……なのにこの人、スッと私の心に入ってくるんだもんな……)
警戒していたはずなのに、気がついたら普通に話していて、異性として意識し、受け入れてしまった。
以前の私なら信じられないぐらいのスムーズさで、今でも夢でも見てるんじゃないだろうかと思ってしまうほどだ。
「……恵ちゃん、あったかい」
その時、涼さんがかすれた声で言い、また胸の奥がキューッと締め付けられ、むず痒い想いに駆られる。
涼さんは私を抱き締めてそのまま眠るのかと思っていたけれど、身じろぎしてから溜め息をつき、言った。
「……今まできれい事を口にしてたけど、本音を言う」