部長と私の秘め事
 尊さんと恵に同時に突っ込まれ、私は「だって……」と口ごもる。

 尊さんは溜め息をついたあと、恵を見て尋ねる。

「中村さんはどうしたい?」

 尊さんに尋ねられ、恵は少し考える。

「……どっちを優先するかとかじゃないんですが、朱里と一緒に寝たいです。ショックな出来事があった朱里を慰めたいし、私も安心したい。……私も朱里も、恋人の前だから口汚く罵らず、我慢しているところはあります。……だから、ちょっと被害者同士二人になって、言いたい事を言う時間も必要かな……と」

 そう言われ、涼さんは頷いた。

「分かった。確かにそうしたほうがいいね。……でも、どうしようか。俺のベッドで二人で寝るかい?」

「いや! 家主に対してそれはあまりにも」

 私は両手を突き出してブンブンと振る。

「涼さん、押し入れ……、はこの家にはないかもしれませんが、どこかに敷き布団はありませんか?」

「あるよ」

「じゃあ、私の部屋でベッドと敷き布団とで寝ます。篠宮さんは空いた客間のベッドで寝てください。……私が仕切るのもなんですが」

「了解、そうしよう」

 涼さんはパンと手を打って立ちあがると、「布団を運ぶね」とスタスタ歩き出す。

「あっ、私が寝ますから、私が運びます!」

 恵はすぐに立ちあがって追いかけようとしたけれど、涼さんに目の前に手を突きつけられ、寄り目になって立ち止まった。

 彼女がおずおずと顔を上げると、涼さんはニッコリ笑って言う。

「今のところ朱里ちゃんはお客様で、今日とてもしんどい想いをした人だ。ここは俺の家だし、お客様をもてなすのは当たり前の事。それに自分の手が空いてるのに、女の子に重い物を持たせる育ちはしていないんだ」

 顔も考えもイケメンな涼さんの言葉を聞いて目を見開いていると、彼は私の両肩に手を置き、クルッと回れ右させる。

「座ってゆっくりしてて」

 そう言って歩いて行ってしまったので、私はモソモソと元座っていた場所に戻った。

「……できた人ですね」

 感心して言うと、尊さんはちょっと自慢げに「だろ?」と眉を上げて笑う。

「恵も本当に良かったね。涼さんみたいな人が彼氏で」

 隣に座っている彼女をツンツンとつつくと、恵は難しい表情で腕組みする。

「……いい、……んだけど。……あまりに完璧すぎて申し訳なくなっちゃう。あれもこれもやってくれるから、何ができるかな? って考えると、自分が小物すぎて泣けてくる」

「分かる! 私も尊さんと一緒にいると、まさにそれ」

 真顔になって頷くと、彼は「おい」と項垂れる。

「あんまり神聖視しなくていいぞ。男って、好きな女の前ではいつでも格好付けていたいだけだから」

 その言葉を聞き、私はキョトンと目を丸くする。

「尊さんもいつも格好付けてる?」

 すると彼は少しふてくされて答える。

「格好付けてるよ。朱里はすげぇ可愛いし、見放されたくない。理想の男でありたいと思ってるし、頼られる存在になりたい」

「激重……」

 恵が呟き、尊さんは疲れたように俯く。

 それから顔を上げ、溜め息をつくと脚を組んで言った。

「あのなぁ、俺と涼が二人で旅行してる時なんて、まぁ大雑把で酷いもんだぜ。お互い寝癖そのままで、室内に下着やら靴下やら干すし、パンイチで寝るし」

 私と恵は彼の言葉を聞き、「ほー……」となってから顔を見合わせる。

「……だって男同士だしねぇ」

「そんなもんだよねぇ……。うちの兄貴と似たようなもんだわ」

「……そう捉えてくれるかもしれないけど、間違えても好きな女の前ではそういう姿は見せたくないし、気の利く頼れるいい男って思ってほしいわけ」

 私は少し照れくさそうに言った尊さんを見て「ふふん?」と笑い、彼の頬をツンツンつつく。

「照れミコ?」

「こんにゃろ」

 彼は両手でムニムニと私の頬を引っ張る。

「ひひひ」

 尊さんは笑った私を見て溜め息をつき、顔を覗き込んで微笑んだ。

「少し元気が出たみたいで良かった」

「んー、……うん、……そうですね」
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