部長と私の秘め事
「いつもラーメンばっかり食べてる人が、急につけ麺を食べ始めても、最初は魅力が分からないかもしれない。でもつけ麺の良さが絶対に分かってくるから」

「たとえが悪すぎて分からないよ。つけ麺は美味しい」

 一生懸命励ましたつもりだったけれど、恵にビシッと突っ込まれてしまった。ウウ……。

「……もう、分かったよ。……ちょっとずつ慣れるよう頑張ってみる」

 恵は肩の力を抜いて笑い、髪を耳に掛ける。

「待たせたら悪いし、行こう」

 そう言った恵が今までより少し大人っぽく見え、私はクシャッと笑うと「うん!」と彼女と腕を組んだ。





「じゃじゃーん! 美女三人のお出ましよ! メンズ~!」

 佳苗さんが先にモデル歩きでリビングに登場し、私たちはそのあとからモソモソと団子になって登場する。

「ウ……ッ」

 私はソファに腰かけていたスーツ姿の尊さんを見てキュンッとし、両手で口元を覆って横を向く。

「ウ”……ッ」

 隣では恵もビシッとスーツで決めた涼さんを見て、くぐもった声を漏らしていた。

 それに対し、彼らは何も言わず黙っている。

「ウ?」

 そちらを見ると、尊さんも涼さんも、私たちをジーッと見つめていた。

 そしておもむろに、二人ともスーツのポケットからスマホを出すと、私と恵を写真に収め始めた。

 ……やってる事がさっきの私と佳苗さんと同じだ。

「ちょっと待って……。恵ちゃんが可愛くてつらい……」

 涼さんは限界オタクみたいな事を言い、恵を連写している。

 撮影の邪魔をしたらいけないと思った私は、スッと床の上を滑って彼女から離れた。

「可愛いねぇ……。恵ちゃん、可愛いねぇ……」

 涼さんはそれだけを繰り返し、あらゆる角度から恵を撮っている。

「……あんな涼は初めて見たな……」

 ある程度私を写真に収めた尊さんが隣に立ち、半分呆れた声で呟く。

「恋に落ちた男って、哀れなもんだな……」

 そう言って彼は私を見てニヤリと笑い、手をとるとお姫様のように甲にキスをしてくる。

「おや……」

 ちょっと照れてモジモジすると、こちらを見てニヤニヤしている佳苗さんとバッチリ目が合ってしまった。

「っか~~~~っ! いいわねぇ! 若いっていいわねぇ! お母さん、いい泡飲みたいわ!」

 両手の前で手を組んだ佳苗さんがクネクネし始めると、涼さんがハッと我に返り、腕時計を見た。

「す、すみません。お待たせしました。レストランに向かいましょうか」

「いやいや、いいのよぉ。私も嬉しいから、どんどん恵に見とれてちょうだい。あなた達を見ているだけでも、瓶一本開けられるわ」

 佳苗さんはすっかりワンピースを着た恵に、極上御曹司が見惚れる図に満足したようだ。

「そんなわけにはいきませんから」

 涼さんはペコペコと頭を下げ、佳苗さんを玄関にいざなう。

「涼さん、すみません。うちの母、シラフでも酔っぱらってるような感じなので」

「そんな事ないよ。とても素敵なお母様だ」

「あらやだ分かってるじゃない~!」

 佳苗さんは終始ご機嫌で、エレベーターに乗って外を歩いている時も饒舌に話していた。





 向かったのは徒歩圏内にある六本木のフレンチレストランで、涼さんはよくそこに行くのか、彼の顔を見ただけでレセプションにいたスタッフがとっておきの笑顔になった。

「いらっしゃいませ、三日月さま」

 予約はしてあるんだろうけれど、私たちはそのまま個室に案内された。

 レストランは一軒家で、窓からは整えられた中庭が見える。

 ウエディングなどもやっているらしく、ライトアップされたそこはとても美しい。

 私たちはギャルソンに椅子を引かれて席につき、飲み物を頼んだ。

 佳苗さんは高級シャンパンやワインに慣れているらしく、メニューを見て「やーん、どれにしよう」とテンションを上げている。

 私と恵はチラッと視線を交わしたあと、大人しくジュースを頼む事にした。

 何のコースにするかは涼さんに一任し、食べられない物、アレルギーなどを確認したあと、私たちは乾杯する事にした。

 乾杯といっても何に乾杯すれば……と思っていたら、涼さんはニコッと笑ってこう言った。
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