部長と私の秘め事
 昼休み前、私はまず第二秘書候補として絞られた、三人の男性の面接に向かった。

 三人の男性はどの人も四十代から五十代ぐらいで、落ち着いた雰囲気の人だ。

 面接は主に人事部長と尊さんが進め、私は横のほうで流れを見守っていた。

 私は事前に、尊さんからこう言われていた。

『朱里を面接に連れて行くのは、第二秘書が仕事のパートナーになるからというのもあるけど、若くて綺麗な女性である朱里を見て、相手がどういう反応をするか見極めてもらうためもある。少し芝居を打ってもいいから、相手の本心を引き出す質問をしてくれ。朱里が生理的に嫌だと感じた人は落とす』

 自分に迫ってくる前提でものを考えるのは嫌だけど、世の中には『そういう人に見えなかったのに……』という事例は多くある。

 温厚で人当たりのいい人だと思っていたのに、いざ女性社員と二人きりになったら、距離が近くなってセクハラまがいの事をするとか、見えない一面はあるものだ。

 時沢元係長を嫌いだったとは言わないけど、部下、同僚と捉えるより前に〝女性〟として見られて、仕事がやりづらかった。

 女性であっても一人の大人、社会人でいるつもりなのに〝下〟に見られて『よくできたね』と大げさに褒められるのも嫌だし、パワハラなんて論外だ。

(でも、どうやって見極めたらいいんだろう)

 面接が淡々と進んでいくなか、私は焦りを覚える。

 三人いる男性の一人は岩淵(いわぶち)さんと言い、少しガッシリした体型で、秘書兼ボディガードとして働いていたとの事だ。

 もう一人は明るそうな雰囲気の照中(てるなか)さん。ニコニコ顔が印象的だ。

 最後の一人は眼鏡をかけた物静か、ちょっと言うと神経質っぽい雰囲気の笹島(ささじま)さんだ。

「では、我々からは以上ですが、最後に上村さん、何かありますか?」

 尊さんに名前を呼ばれ、私はドキドキしながら尋ねる。

「……初めまして、弊社副社長、篠宮の秘書をしております上村と申します。お三方にお尋ねしたいのですが、歓迎会を開くとして、どんな話をしたいですか?」

 私はあえて、ニコッと笑って明るく尋ねた。

 これで「副社長の隣でニコニコ笑ってるだけの、お飾り秘書」と思う人なら、私が女である事を意識した答えをするだろう。

 私が質問したあと、尊さんは考える隙を与えず「では、岩淵さんからお願いいたします」と矛先を向けた。

 岩淵さんは私を見てからニカッと笑って答える。

「懇親会としての意味なら、酒を飲んで楽しく過ごして、お互いの趣味などを知りたいですね。私はグルメに目がないので、美味い店を教え合いたいです」

 んー、微妙!

 次の照中さんは、さらにニコニコして私を見つめてくる。

 ……というか、時々視線がチラッと下……、胸元にいっているのは気のせいだろうか。

「私も副社長と上村さんと親睦を深めるために、お互いの好きなものや趣味についてお話したいですね。私、ワイン通なのでいいお店ご紹介できますよ」

 はい、微妙!

 っていうか、胸見ないでほしい。

 最後の笹島さんは、淡々と言った。

「……私は華やかな場は得意ではありませんし、気の利いた事も言えません。歓迎会に適した話題ではないと思いますが、秘書業に就いて二十年以上経ちますが、その会社によって同じ業務でもやり方が異なる場合がありますので、細かなすりあわせをして、いざという時に失敗しないようにしておきたいです」

 それを聞いた瞬間、岩淵さん、照中さんがハッとした顔で笹島さんを見た。

 ……はい、決まり。

「上村さん、他にありませんか?」

 尊さんに尋ねられ、私はニコッと笑って頷いた。

「はい、大丈夫です」

 私の中では、もう笹島さんに決まっていた。

 こう言うのは、自惚れているかもしれないけれど、岩淵さんと照中さんの「飲みたい」の中には、「若いお姉ちゃんと同席できてラッキー」的な雰囲気をチラッと感じたからだ。

 二人とも既婚者だし、滅多な事はしないのは分かる。

 でも今の一瞬で、私を〝賑やかし〟的に捉えた雰囲気が出たのを、見逃さなかった。

 いっぽうで笹島さんは、私なんてガン無視して仕事の事しか考えていない。

 一般的には「素っ気なくてノリが悪い」と言われるタイプかもしれないけれど、「秘書になるために面接を受けた」という意志をまったくブレさせていない。

 岩淵さんと照中さんは、僅かにだけれど渋い表情をしている。「失敗した」と思っているんだろう。
< 546 / 692 >

この作品をシェア

pagetop