部長と私の秘め事
「開けてみて」

 彼はまた、語尾にハートマークがついていそうな声で言い、私は渋々と箱に手を掛ける。

「……しかし思うけど、ブランド品のプレゼントを前にして、そんなに嫌そうな子を初めて見るよ」

 そう言われ、私はハッとする。

「す、すみません! う、嬉しいんです。でも自分が普段喜ぶものとグレードが違いすぎるから、どう反応すればいいか分からなくて。涼さんだって、飛行機とか島をプレゼントされたら戸惑うでしょう?」

 彼にとっても大きなプレゼントだろうと思うものを例に挙げたけれど、涼さんは「ん?」という顔をしてから、ちょっと目を逸らした。

「……ま、まさか……、プライベートジェットとか島、持ってるんですか?」

「んー、…………まぁ…………、小さいのだけど…………」

 涼さんは謙遜しながら答え、私はあまりに住む世界が違いすぎて脱力し、隣の椅子にもたれ掛かった。

「わあ、恵ちゃんが液体化した。やっぱり猫は液体」

「…………そうじゃないっす…………」

「でも尊は関西のほうに山持ってるよ。人を雇って管理を頼んで、春になると筍が送られてきて、俺にもお裾分けしてくれる」

「山ですか! 気兼ねなくキャンプできそう!」

 それを聞いた瞬間、私は体を起こして元気よく言う。

 涼さんは表情を固まらせたあと、ふかーい溜め息を吐く。

「……恵ちゃんは山派だよね……。俺も島じゃなくて山買えば良かった。今からでも買おうかな」

「いや、海もいいじゃないですか。海の幸が色々採れると思いますよ?」

 私はフォローしたあと、ゆっくりしすぎると遅刻すると思って、プレゼントを開けた。

 うぐいす色の箱を開けると、四つ葉のクローバーみたいな形のピアスとペンダントが入っていた。

「本当はもう少し大きいのを買いたかったけど、オフィスにもつけていくならそのほうが汎用性が高いと思って。朱里ちゃんも持ってるブランドだよ。まったく同じのじゃないけどね。お揃い嬉しくない?」

 そう言った涼さんは、まるで褒められるのを待っている大型犬のようだ。

 ニコニコしている彼のお尻で、フサフサの尻尾がブンブンと振られているのが見えてもおかしくない。

 正直、価値が分からないし、アクセサリーとかもあんまり興味がない。

 でも涼さんは一生懸命考えてくれた上に高額なお金を出してくれているし、いつまでも塩対応していたら駄目だ。

「ありがとうございます。嬉しいです」

 お礼を言ったあと、私は小さく決意する。

 ――よし。

 私は少し照れながら立ちあがり、テーブルを回り込んで彼の傍らに立つ。

「つけてあげ……」

 涼さんが何か言う前に、私は彼の頬を両手で包み、額にチュッとキスをした。

 赤面してドヤ顔すると、彼は目を見開いて瞠目したあと、うるっと目を潤ませて私を抱き締めてきた。

「~~~~好き……っ! 可愛い!!」

「あぁ……、はい……。と、特別ですからね……」

 私は両手を彷徨わせたあと、セットされた涼さんの髪を丁寧に撫でる。

 涼さんは顔を上げ、私を見てしげしげと言う。

「恵ちゃんは可愛いし、弁えているよね……。いつもは塩、塩、なのに、ここぞという時に上質な蜂蜜を垂らして俺を手懐けるんだもん」

「蜂蜜大好き某クマさんを飼った覚えはありませんけど」

「でも俺にとって恵ちゃんの塩は、高級ブランド塩ぐらいの価値があるから」

 またよく分からない事を言われたけれど、私はこれを〝涼さんジョーク〟と捉え、「よく分からんが、悪くは言われてないと思うから笑っとけ」と思って処理している。

「アルハンブラ、つけてあげるからここに座って」

 涼さんは立ちあがり、自分の席に私を座らせると、先ほどのジュエリーを手にする。

(なんかこういうの初めてだから、緊張するな……)

 男性にアクセサリーをつけてもらうなんてお姫様体験、今まではなかったからムズムズする。

(そもそも、私が許さなかったんだけどね)

 私は付き合った事はあっても、深い仲にはならなかったし、手を繋ぐ程度ならしたけど、こういう恋人らしい親密なやり取りはしなかった。

 他の人なら気持ち悪くて絶対に拒否しているけど、なぜか涼さんなら大丈夫で、我ながらすっかり飼い慣らされてしまっている。

 彼はペンダントをつけたあと、私がつけていたピアスを取り、慎重な手つきでピアスをつける。

「痛くない?」

「大丈夫です」

 返事をすると、涼さんはサラッと私の髪を掻き上げて微笑んだ。

「うん、似合う」
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