部長と私の秘め事
「凄い……。素敵」

 バラの花はとても精緻なタッチで、見ているだけでうっとりとした吐息が漏れてしまう。

「大人の女性になっちゃう……」

「どこからどう見ても、立派な大人だよ。とりあえず、着替えてきな。俺も着替える」

「はい」

 このだだっ広い部屋のどこで着替えよう? と思っていたら、尊さんはスタスタと階段を上がっていってしまった。

(気を利かせてくれたのかな)

 そう思った私は、広いリビングのど真ん中で着替えるのもなんだし、と思い、下着や服を持って洗面所に向かった。





「……ミラクルフィット」

 数分後、私は洗面所の鏡の前で下着姿になり、驚いていた。

 私は胸が大きいほうだから、下着選びが難しいんだけれど、さすが尊さんと言うべきか、ぴったりなサイズを見繕ってくれた。

 思えば、尊さんと同棲するようになる前から、彼は私の部屋にハイブランドの服をズラリと揃えてくれていた。

 変なところで完璧主義者な一面を持つから、あのあと下着や靴のサイズも確かめられ、恥ずかしいけれど全部把握されてしまったんだっけ。

「しごできミコ」

 私は少し赤面して尊さんを褒め、恐る恐る高級ワンピースに袖を通す。

 ――と、階段を下りてくる足音が聞こえ、「着替え終わったか?」と彼の声がする。

「んまっ、まままっ、待ってください!」

 上ずった声を漏らすと、尊さんは「洗面所か」と呟いてこちらにやってくる。

 チラッとそちらを見ると、高級そうなスーツをビシッと着こなした尊さんが立っていた。

「破壊力ゥ……」

 男性のスーツ姿はずるい。

 会社でも見られるけれど、フォーマルな場で着る時は違う一面を見せてくる。

「なんだよ、朱里だって破壊力あるだろ。…………綺麗だし」

 尊さんは照れたように言い、私の髪をファサッと前によけると、ファスナーを上げてくれる。

「……どこでこんな事を覚えたんですか」

「何がだよ」

「女性のファスナーを上げるんなんて、相当女性慣れしてないと、できなくないです?」

「……知らんけど、背中にファスナーがあったら、大変そうって思うだろ」

「……人助けでしたか」

「そう言うと、一気に色気がなくなるな」

 尊さんの言葉を聞き、私は噴き出す。

 彼もクスクス笑ったあと、鏡越しに私を見てきた。

「似合うじゃないか。…………可愛い」

 尊さんはそう言い、私にチュッとキスをしてくる。

「あっ、…………リップ、うつっちゃいますよ」

 時すでに遅しで、尊さんの唇にはローズカラーが移っていた。

「……ミトコになっちゃった……」

「一回キスしたら同じだよな?」

 彼は悪戯っぽく笑うと、もう一度キスをしてきた。

「もぉ……。どうせメイク直しするから、いいですけど」

 私はプイッと横を向き、照れ隠ししながら言う。

「着替えたなら、明るいところで見せてくれよ」

 尊さんは私の手をとると、リビングダイニングへ連れて行った。

「そこに立って」

 彼は夜景を背景に私を立たせ、数歩下がってじっくりと見てくる。

 私も、ニヤつく顔を必死に抑えて尊さんを観賞していた。

 彼は光沢のある黒い細身のスーツに、黒シャツを合わせ、チャコールグレーのネクタイを締めている。

 袖にはスーツと同じブランドなのか、丸いシルバーのカフスボタンがついていた。

「……あれ、時計がいつものと違いますね」

「ん? ああ、気分転換に」

 あとから見せてもらった、シルバーのベルトに青い文字盤のそれは、タグ・ホイヤーのカレラという種類らしい。

「ジュエリーがいるな」

 尊さんは私を見てニヤッと笑うと、ソファに置いてあるプレゼントの中から、赤いショッパーを手にした。

 私はお洒落は好きだけれど、基本的に自分で買える物にしか興味がない。

 だから尊さんに「ポメラート」と言われてもピンとこず、首を傾げた。

「つけてやるよ」

 彼はジュエリーケースから青い石のついたペンダントを出すと私の首につけ、お揃いのピアスを耳につけてくれた。
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