部長と私の秘め事
「風呂上がりにびしょ濡れになったまま走り回って、放心した状態でドライヤーかけられるまでセットな」

「あはは! そういう子いそう!」

 私は本物の猫を想像して笑い、ギュッと尊さんを抱き締めた。

「いつも沢山、沢山、ありがとうございます」

「ん」

 尊さんは微笑むと私にチュッとキスをし、「俺も着替えるか」と言ってネクタイを緩めた。



**



 四十七階の部屋に戻った私――中村恵は、ギクシャクしながら部屋の中を進む。

「恵ちゃん、ヒール疲れただろうから、靴脱ごうか」

「えっ? は、はい」

 挙動不審になった私は、『スリラー』みたいに両手を上げたまま振り向いた。

「はい、お嬢様、お手をどうぞ」

 涼さんに手を差しだされ、「お手」と言われた私は、思わずその上にポンと軽く握った手を置いてしまう。

「あははっ、こっちの『お手』でもいいけど」

 彼は私をエスコートしてソファに座らせると、目の前に跪いてパンプスを脱がせた。

「……わあ……。有料サービスですか?」

「なにそれ」

 私の言葉を聞き、涼さんはクスクス笑う。

「涼さんにこうやってお姫様扱いされたがっている人、大勢いそう」

 そう言うと、彼は微妙な顔で笑った。

「言っておくけど、俺は金を積まれても、何とも思っていない人にこんな事はしないよ」

 涼さんはコトンとパンプスを置き、スカートの裾を捲り上げると、ストッキング越しに私の膝にキスをする。

「わっ……」

 びくっと身を引くと、涼さんは上目遣いに私を見て妖艶に笑った。

「つまんない事を言うから、お仕置き」

「す、すみません……」

 謝ったあと、高価なワンピースやアクセサリーが慣れない私は、モゾモゾしながら尋ねる。

「あの、一回身につけてる物をとっていいですか? 落ち着かなくて……」

「ん、分かった。じゃあ俺が外してあげる」

 そう言って涼さんは私の手をとると、手の甲にチュッとキスをしてからブレスレットを外す。

「あ、フレーメン反応起こした猫みたいな顔してる」

 彼は私の顔を見てクスクス笑い、次にこめかみにチュッとキスをし、ピアスを外してきた。

「なっ、なんでいちいちキスするんですか!」

「恵ちゃんを美しく飾ってくれたアクセサリーに、敬意を込めて」

「ならアクセサリーにキスすればいいじゃないですか!」

「俺、無機物に興奮する性癖ないから……」

 そう言いながら涼さんはアクセサリーをボックスに戻し、最後に私の首に手を回してネックレスをとろうとする。

「……ん、ちょっと背中向けてくれる? 留め具が小さいからね……」

 言われて私は大人しく彼に背中を向け、髪が邪魔にならないように、なるべく押さえる。

 すると――。

「ひぃっ!」

 うなじにキスをされ、悲鳴が口をついて出た。

「そんな、お化けでも見たような声を出さなくてもいいじゃないか」

「妖怪キス魔」

「妖怪甘噛みにもなろうかな」

 彼は機嫌良さそうに言い、私の首筋にチュッチュッとキスをし、軽く歯を立ててくる。

「んぅ……っ」

 くすぐったいのか気持ちいいのか分からないけれど、私はとっさに首を竦めてゾクゾクした感覚をやり過ごそうとする。

 油断していたところ、涼さんに後ろから抱き締められた。

「可愛いね」

 耳元で囁かれ、私はゾクゾクッとして唇を引き結ぶ。

 涼さんは私のお腹をサワサワと撫で、胸をパフッと手で包んできた。

「可愛い」

 体の大きな彼にスッポリ包まれ、低く艶やかな声で「可愛い」を耳元で繰り返され、胸がドキドキしておかしくなってしまいそうだ。
< 585 / 693 >

この作品をシェア

pagetop