部長と私の秘め事
「……すっごい重なってますね。……こんなにいいや」

 彼女はキャトルシリーズの、細いリングが何重にも重なったように見えるデザインを見て、おののいている。

「……でもこれ、黒い奴、涼さんがつけたら似合いそうなんだよな……」

 恵がボソッと呟いたのを見て、涼さんは「はいはーい」と言って彼女が言ったデザインを指に嵌めている。

「……うん……」

 恵は自分の好みというより、涼さんにつけてほしい物を優先して考えているようだ。

「朱里、これは?」

 尊さんが指さしたのは、カルティエのトリニティリングだ。

 ホワイトゴールド、ゴールド、ピンクゴールドの三色の細いリングがねじれてついていて、優美で女性らしさがある。

「素敵ですね……。あ、尊さん、これも可愛い」

 私が指さしたのは、エルメスのレオパード柄のリングだ、

 デザインそのものはシンプルだし、カジュアルに付けられるので、とても自分好みだ。

「それは普段用で別途買ってやるよ。ペアリングは別のどうだ?」

「あぁ……、確かにこれだと色違いというか、別の柄が……可愛い系になりますね。でもこっちの革がついてるリングも可愛い~」

「うん、じゃあ、そっちも普段用に買ってやるから、ペアリングは別案な」

「…………尊さん、エルメス嫌いですか?」

 さっきからどうにも、エルメス以外に誘導されている気がする。

「はっ、もしかして高い……、高いですよね!? ごめんなさい!」

「いやいやいやいやいやいや。違う。今のレオパードと革のと、両方買って、さらにペアリング買っても余裕だ」

「……あー、じゃあデザインが好きじゃないとか?」

「そうじゃないんだが……。難しいな」

 私たちがそんなやり取りをしている間にも、恵はブシュロンに搾ったようで、シンプルなリングにするかダブルにするか、真剣に悩んでいる。

 涼さんはワクワクした表情で恵の選択を見守っていたけれど、恵がスッ……と細いシンプルなリングを選ぼうとした手をガシッと握り、「よし! 二人でダブルにしようね! アイスもダブルのほうが嬉しいでしょ!」と言って決めてしまった。

 恵はダブルのホワイトダイヤモンド、涼さんはブラックダイヤモンドでお買い上げらしい。

「どうせならピアスも同じのつけたら? ほら、これなんてまったく同じだよ。一見フープっぽく見えるから、恵ちゃんのクール系スタイルに似合うと思う」

 涼さんはテレビショッピングのMCのように、流暢に恵を誘導していく。

「可愛い……、ですけど……、これイヤリングタイプじゃないですか。落としたら恐い恐い」

「じゃあ、こっちの三色のとか」

「……メインは指輪でしょう? ピアスは物凄くシンプルでいいです。これで」

 そう言って、恵は指輪と同じホワイトダイヤモンドの細めのフープピアスに決めた。

「じゃあ、俺も恵ちゃんとおそろにしよ。あと、こっちのブラックのイヤークリップもお願いします」

 意外と恵のほうがすんなり決まってしまった。

 外商さんたちは、ニコニコ笑顔だ。

「朱里、さっきのカルティエの三連のは? 俺用にシルバーとブラックのもあるし。色合い的に、ちょっと中村さん達と似てると思うけど」

「うーん……、じゃあ……」

「ついでに、ダイヤついてるやつにしないか?」

「いや、びっしりついてたら会社につけて行けなくないです?」

 抵抗すると、尊さんは一瞬視線を外してから、食い下がってくる。

「じゃあ、一粒ダイヤのほうで。ピアスも同じトリニティでいいか?」

「はい……。尊さんは……、穴空いてませんもんね……。鼻輪つけます?」

「牛にすんな」

「キャトルミューティレーション……」

「だからオカルトにいくな」

 そんな感じで決定したけれど、先日、焼き肉の時にもらったセットと大差ないように思える。

「なんか疲れたね……」

「マジ疲れた」

 私と恵はそう言い合い、ちゅる~とオレンジジュースを飲む。

 彼らが精算し、スタッフさんたちがラッピング等をしている間、私と恵はUMAについて語り、尊さんと涼さんは死んだ目で私たちを見ていた。

 後日聞いた事だけれど、買う物を決めている間、私と恵の背後にスタッフさんが立っていて、尊さんと涼さんに値段についてオークションみたいに合図を送っていたらしい。
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