部長と私の秘め事
 商品開発部は綺麗どころが揃っていて、その中でも一際美人な女性だ。

 スラッとした高身長に、芸能人顔負けの整った顔。おまけに胸が大きくてスタイルがいい。

 六条さんだけじゃなく、商品開発部の男性社員も彼女を気にしているのがすぐに分かった。

 ――気に食わない。

 私は背が低いし、胸もあってないようなものだ。

 自分と正反対な美女を見ていると、恵まれた彼女が妬ましくなる。

 六条さんは分かりやすいぐらい上村さんにちょっかいをかけ、目の前で彼のそんな姿を見るのが苦痛で堪らない。

 彼の上村さんを見る目はとても優しく、彼女に塩対応されて嬉しそうにしているのが、本当に嫌だ。

 ――私の六条さんは、もっと格好いい人のはずなのに。

 そんな勝手な想いが沸き起こり、二人を見るのが嫌になってしまう。

 だから上村さんと話す時も、無意識にツンツンしてしまっていた。

 六条さんだけは女性を選ぶ時も容姿に惑わされず、本質を見抜いて好きになるのだと思っていた。

 なのに結局、彼が好きになったのは美人で胸の大きい女性。

「あれだけ偉そうな事を言っていたのに、それ?」と言いたくなる。

 ……でも、分かってる。

 これは、選ばれなかった女の僻みだ。

 彼が私を好きになってくれたなら、たとえ見た目が理由だとしても受け入れていた。

 でも選ばれなかった私は、上村さんの事をろくに知りもせず、彼女を否定している。

 ちゃんと話してみれば、彼女の魅力が分かるかもしれないのに。

 けど、今まで素っ気なく振る舞ってしまったのに、いきなり「あなたの事が知りたいんです」とすり寄るなんてできない。

 それに私だって、ライバルと思っている女性と仲良くしたいなんて思わない。

 上村さんは肌が白い上に毛穴がないみたいにツルツルで、エクステを付けていないのに睫毛が長い。目も大きいし、唇もプルプルだ。

 髪もツヤがあって綺麗だし、夏場に腕を見ても無駄毛がない。

 おまけに近づいたらフワッといい匂いがする。

 香水をつける人は臭いイメージがあるのに、彼女が纏っている香りはとてもいい匂いな上、プンプン匂いを振りまくような下品な付け方をしていない。

 本当に、上等な女なのだ。

 大抵の女性なら高身長で顔も良く、営業部のエースである六条さんに話しかけられたら、クネクネして媚び始める。

 なのに上村さんは終始クールな対応で、スンッとしたまま。

 一つでも「やっぱりその程度の人だったんだ」と思える要素があったなら、溜飲を下げる事ができたかもしれないのに、上村さんは文句の付けようがない。

 だから私は彼女を見て、「どうせ見た目だけ」と自分に言い聞かせていた。

 つくづく、惨めで堪らない。

 上村さんは六条さんに選ばれた上に、美人で嫌なところもない。

 劣等感ばかりで、チビでぺったんこな私とは雲泥の差だ。

 そんな事をグダグダ考えながらも、私は六条さんに「上村さんの事が好きなんですか?」と聞けずにいる。

 質問したばかりに、彼の想いをハッキリ知ってしまえば、失恋が確定してしまうからだ。





 そう思っていた矢先、商品開発部の速水部長が社長の隠し子だと分かり、副社長になった。

 同時に上村さんが副社長秘書になり、どの部署の社員たちもざわついた。

 そういう事に興味のない人は話に乗らなかったけれど、みんな「あの二人はデキてる」と口々に噂していた。

 速水部長は六条さんとは違うタイプの美形で、周りの人からの評判もとてもいい。

 若いのに部長職に就いていて、おまけにイケメンで仕事ができる上に性格もいいので、営業部の中にも密かにファンクラブがあるほどだった。

 その後、会社が新体制に入ると同時に、ジワジワと速水部長――、篠宮副社長と上村さんが付き合っていて、結婚まで秒読みという噂が広まっていった。

 総務部にいる一部の過激派がバカな事をしたらしいけれど、営業部に似たようなバカがいなくて一応安心した。

 その噂が広まったあと、六条さんの様子を見守っていたけれど、彼は相変わらず上村さんを見かけるとちょっかいを掛けに行く。

(あの噂、聞いてないのかな……)

 歯がゆい思いに駆られても、私にはどうする事もできなかった。





「はぁ……」

 おにぎりを食べ終えた私は溜め息をつき、ラップを丸める。

 水筒のお茶を飲んでいた時、六条さんがやって来た。
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