部長と私の秘め事
「私から『結婚前に一年は同棲を』と言ったけれど、三日月家の皆さんとお食事できる機会があったら、ぜひ教えてね」

「はい」

「さ! 今日は海キャンプだし、今度こそ水着になって行ってらっしゃい! 真剣な話は、しかるべき場所で、きっちりとした服を着てしましょ」

「それもそうですね。行こうか、恵ちゃん」

「え、あぁ、はい」

 急に話を振られた私は立ちあがる。

「孝志さんと恭祐さんも行きましょう」

「っていうか、涼さんのほうが年上なんですし、呼び捨てにしてくださいよ。ソワソワしちゃいます」

 恭兄がそう言うと、涼さんはエア壁ドンをした。

「……恭祐」

「トゥンク……」

「はいはい、私先に行ってますからね」

 私はビールをグッと呷ると、「お腹いっぱいだ~」と言いつつテントに向かって歩いた。





 テントに着くと中に入り、ファスナーを閉めてから水着を出す。

(涼さんの前で下着姿にはなったけど、水着は初めてだな……)

 例によって服や下着もだし、水着も沢山涼さんに買い与えられた。

 その中から、言い方は悪いけど一番マシなのを選んだ。

 大体のビキニは露出が多くて、朱里みたいなナイスバディなら似合うだけど、私が着たら、雰囲気とちぐはぐになりそうで怖い。

 露出するのが恐いからといって、ミニスカートみたいなフリフリのも抵抗がある。

 なるべくシュッとした、スポーティーなのを……と思い、選んだのがボトムが黒のボーイレッグで、トップがボタニカル柄のホルターネックになっている奴だ。

 胸元にフリルがあるけれど、それぐらいなら許容範囲で、むしろ胸のサイズを誤魔化せるのでありがたい。

 着替えた後は、泳げない訳じゃないけれど、海でガチ泳ぎするつもりはないので、浮き輪を膨らまさないとならない。

 海水で顔を濡らしたくないので、浮き輪に乗ってプカプカして遊ぶつもりだ。

「よし」

 着替え終わって鏡で確認したいけれど、テントなので仕方がない。

 ファスナーを開けると、目の前に涼さんのお尻があって「うわっ!」と声が漏れた。

「あ、終わった? しっかり見張ってたよ」

「ど、どど、どうも……」

 彼は私が浮き輪を持っているのを見て、「ちょっと待って」とテントの中に入った。

 そして掌サイズの何かを出す。

「これ、電動式の空気入れ。便利だよ」

 どうやらケーブルで充電するタイプらしい。

 涼さんはノズルを浮き輪の空気入れにセットすると、底にあるボタンを押す。

 空気入れの上部から空気を吸う仕組みらしく、みるみる浮き輪が膨らんでいく。

「凄いですね。こういうのもチェック怠ったら駄目ですね」

 アウトドア用品の新作には目を光らせているつもりだけど、思いの外知らない商品はあるものだ。

「それにしても……」

 涼さんは一歩離れて私をしげしげと見てくる。

「いいねぇー……」

「しみじみと言わないでくださいよ。エッチ」

「恵ちゃんにもっと『エッチ』って言われたい。滾る」

「滾らんでええ」

「いやー、でも恵ちゃん可愛い。スタイルいいよね。こう……、引き締まった脚がスラッとしてて、脚舐めたい」

「最後にサラッと恐い事言わないでください」

「将来、プールつきの一軒家に引っ越そうかな……」

「そんなアメリカナイズな家、求めてませんって。着替えてきたらどうですか?」

「はーい」

 涼さんのいい返事を聞き、私は手に持っていたラッシュガードを着る。

 なるべく露出の少ない水着を選んだとはいえ、ビーチまでは少し歩かないとならないし、水着のままとはいかない。

「お待たせ~!」

 思ったより早く着替えた涼さんは、ラッシュガードと短パンを穿いた私を見て、分かりやすく落ち込んだ。

「せっかくの水着が……」

「露出したまま歩きたくないので」

 私は掌を彼に突きつけ、きっぱりと言う。

「ビーチについたら好きなだけ見させてもらうから」

「拝観料もらいますよ」

「お布施なら幾らでも……」

 ああ、駄目だこの人……。

 私たちはバッグや浮き輪、マットなどを持ち、孝兄、恭兄とも合流してビーチに向かった。

 母は一応水着を持って来ているものの、父とまったり過ごすそうだ。
< 660 / 693 >

この作品をシェア

pagetop