部長と私の秘め事
「恵ちゃんはさぁ……。甘さとしょっぱさが絶妙だよねぇ……。可愛い……。抱き締めていい?」

「もう抱き締めてると思うんですが」

「もっと抱き締めたい」

「圧死します」

 私たちはそんな会話をしつつ夜の海で語り合い、遅くならない頃合いでテントに戻った。





「あー……、キャンプなのにシュラフじゃないの、落ち着かないです。セレブか」

 簡易ベッドに寝た私は、手触りのいいタオルケットを被り、ゴロゴロする。

「恵ちゃんは冬キャンもするみたいだね。本格的で格好いい」

「豪華なBBQもいいけど、今度スキレットで料理しましょうよ」

「いいねぇ。恵ちゃんと一緒なら何をしても楽しいよ」

「はいはい。おやすみなさい」

「おやすみ」

 私はこの涼さんの溺愛がいつまで続くのか少し不安に思いつつも、好きでいさせるのもまた、自分の努力次第だと感じ、目を閉じた。



**



 八月十二日。

 私――、上村朱里と尊さんは、午前中の早い時間に青山霊園へ向かい、篠宮家と速水家のお墓参りを済ませた。

 著名人も眠っているという墓地だから、両家が揃っているのはおかしくないけれど、今まで彼らが鉢合わせした事はなかったんだろうか、と、つい考えてしまう。

「さて、旅行の準備しないとな。最後の買い物はないか?」

 帰り道、尊さんが尋ねてくる。

「飴ちゃんは空港で買えるとして……。他に何か要りますか?」

「パスポート、着替え、下着、洗面用具、朱里はコスメ、もしもの生理用品、スマホの充電関係、自撮り棒? 拘りがあるならドライヤーやヘアアイロン、必要ならメモや筆記用具。……あと、貝殻ビキニ?」

「あははははは!」

 最後に冗談をぶっ込まれ、私はヒイヒイ笑う。

「貝殻ビキニは冗談として、温水プールがあるから、一応水着」

「へー! 温水プールなら冬でも安心ですね」

「……知ってるか? 貝殻ビキニ、青森県むつ市のふるさと納税の、返礼品にマジであるんだよ」

「ひはははははははは!」

 尊さんにスマホの画面を見せられた私は、本物の貝殻ビキニを見て爆笑する。

「あー、面白い。でもネタとして欲しがる人は一定数いるんでしょうね。私は普通のビキニでいきますけどね~」

「どんなビキニだ?」

「あ、お父さんチェックしようとしてる。普通のビキニですよ。海外ってワンピースタイプとか、あんまり露出が少なくても、『子供っぽい』って笑われるんでしょう? 旅の恥は掻き捨てで、ふつーのビキニでいきます。だから尊さんはヒョウ柄のブーメランパンツで」

「なんでだよ」

「海外にも通用するミコマグナムを、アピールする機会じゃないですか」

「この」

 尊さんは私の鼻をつまんでくる。

「ふがっ、ひひひひひ……」

 私は公園のど真ん中にいるにも関わらず、ギュッと尊さんを抱き締める。

「甘えん坊だな」

「海外旅行を前にして、ハイになってます」

「俺も朱里と行けるの嬉しいから、ちょっとハイかもな」

「二人合わせてハイハイ」

「赤ちゃん返りしてるじゃねぇか」

「ばぶー!」

 私たちは笑い合いながら、手を繋いで家路についた。



**



 そして翌日、とうとう出国の日だ。

 日本の航空会社のビジネスクラスでシドニーまで行き、そこからオーストラリアの航空会社の飛行機で、ケアンズまで行くらしい。

 十九時四十分の便なので、私たちは夕方に空港で待ち合わせし、空港飯を堪能する事にした。

「ひひひひひひ」

「朱里、怖い」

 出国ハイになっている私に、恵が冷たい一言をくれる。

 彼女は黒いキャップを被り、黒いTシャツにワイドデニム、白いスニーカー姿だ。

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