部長と私の秘め事
「天岩戸になっちゃった」

 私はトントンと恵の腕をノックし、「もしもーし」と声を掛ける。

「アメノウズメなら許す」

 恵はそう言って、ガバッと私に抱きついてきた。

「任せて! アマテラス恵のために、愉快なダンスを踊ってあげる!」

 私は彼女を抱き留め、ケラケラと笑う。

「……なんかアマテラス恵、アメノウズメ朱里って、リングネームみたいじゃね?」

 恵がボソッと言うと、全員がドッと笑った。

「スサノオノ尊」

「まんまじゃねーか」

 涼さんが言った言葉に、尊さんがげんなりして突っ込む。

「マスラオ涼」

「……なんか嫌ですそれ」

 親指で自分を指して言った涼さんに、恵が冷たい視線を送っている。

「それはともかく、うちの家族に会っていない状態であれこれ悩んでも仕方ないから、夏が落ち着いて秋になった頃にでも、一回食事会セッティングしてみようか」

「……うっす」

「恵、頑張って! 草葉の陰から応援してる!」

「死ぬな」

 そんな会話をして休んだあと、予約の時間が迫ったとの事で、ラグーンの近くにある『スプラッシュ・レストラン』という、シーフードが美味しいお店へ行った。

 基本的にイタリアンらしく、地元の漁師さんが経営している本格的なシーフードレストランだ。

 名物は帆立と海老のリゾットで、レモンの爽やかさと絶妙にとろけたチーズがマッチングして、非常に美味しい。

 殻付きの海老やカニがたっぷり入った、トマトベースのスパゲッティマリナーラ、フィッシュ&チップス、またまた牡蠣、ガーリックブレッド、海老春巻きなど、とりあえず何でも注文して、みんなでパクパク食べた。

 帰りは海沿いを歩いて写真撮影し、じんわりと「青春だな~」なんて思ってしまう。

 少し前の私は昭人というちっちゃい男に振り回され、こんな幸せを知らなかった。

 気兼ねなく何でも言い合える男の人が、世の中にはちゃんといると分かっただけで、人生が大きく開けた気がした。

 それに昭人とでも海外旅行に来られただろうけど、こんなに手放しで楽しめなかったと思う。

 何をするにも意見が対立したり、季節が悪かったら「暑い」と言ってホテルから出たがらなかったり、想像できる。

 尊さんも涼さんも、色んな土地に行って楽しむ事を経験した人だから、どんな状況になっても〝いつもの自分〟を保てている。

 言葉も問題ないし、どこへ行っても自分のペースを守って、余裕を持った対応ができるのは凄い事だ。

 お金を持っているからとか、イケメンだからとかじゃなく、尊さんという人を培った経験の多さ、そうならざるを得なかった人生とか、引っくるめて好きなんだなと感じた。

「尊さん」

「ん?」

「あいらぶゆー」

 思いきり日本語発音で言うと、彼はクシャッと笑って私を抱き上げ、高い高いをする。

「俺もあいらぶゆーだよ」

「あははっ」

 恵はそんな私たちを写真に収め、涼さんに「俺たちもリフトやる?」と言われて「貧弱なので涼さんを持ち上げられません」と断っている。

「そうじゃないでしょ、恵ちゃん!」

 涼さんの突っ込みを聞いて、私たちは南半球の空に笑い声を響かせた。

「あ、見て。あそこ、南十字星」

「えっ? マジですか?」

 涼さんに言われ、恵は南の空を見上げる。

「日本にいると地平線の下に隠れちゃってるけど、こっちはかなり高い場所にあるね」

 彼の指さすほうを見ると、確かに星が四つ見える。

 涼さんはスマホのアプリを開き、それと見比べながら教えてくれる。

「南十字星のすぐ隣にあるのが、ケンタウルス座。大きいのが双つ並んでるの見えるでしょ。その上にあるのが蠍座のアンタレス」

 彼はポケットからレーザーポインターを出し、それでガイドしてくれる。

「南東から東に掛けて、天の川が見えるだろ」

 尊さんに言われ、私は星々が密集して白っぽくなっている部分を見てジーンと感動する。

「あっちは北半球でもお馴染み、高い場所にあるのが射手座」

 その続きを涼さんが請け負う。

「はい、真上をご覧ください。蠍座の上にあるのが蛇遣い座」

 イケボの星座ガイドを聞きながら、私と恵は手を繋いでぼんやりと星空を見上げていた。

 潮騒が聞こえるなか、なんとも贅沢な気分に駆られ、胸が一杯になる。

「幸せだなぁ……」

 思わず呟くと、尊さんがポンポンと頭を撫でてくれた。



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