部長と私の秘め事
 モリモリ食べている間、百合さんと将馬さん、ちえりさんや小牧さんたちが現れ、私たちに手を振って来る。

 彼女たちは少し離れたテーブルに座り、それぞれの場所で食事を楽しむようだ。

 私はオーダーした料理を綺麗に食べ、ビュッフェで盛ってきた料理もペロッと平らげ、さらに二回料理を選びに行き、ご機嫌でお腹をさすった。

「……毎度ながら、見事な食いっぷりだなぁ」

 ゆっくりとコーヒーを飲んでいた尊さんに言われ、私はピースする。

「そこに食べ物があるから」

「ジョージ・マロリーの名言みたいに言うな」

「人は考える胃袋である」

「ブレーズ・パスカル。……中村さんが聞いたら『化け物』って言うぞ」

「我、食べる。ゆえに我あり」

「ルネ・デカルト。アイデンティティだもんな」

「食を見てせざるは勇なきなり」

「孔子。もはや使命感」

「食は幸せと自由への鍵である」

「ハンナ・アーレント。まぁ、そうだろうな」

 尊さんの百パーセントの回答と、絶妙な合いの手を聞いた私は、片手でエアマイクを持ってスッと彼に向ける。

「尊さんからは?」

「…………万物は朱里である」

「ひひひひひ。ピタゴラス」

 満足した私たちは先にレストランを出る事にし、百合さんたちに会釈する。





 部屋に戻ったあと、「さて!」と、ッパーン! とお腹を叩いた。

「今日は東京に帰る訳ですが、お土産購入はどのような感じで?」

「相撲取りじゃねぇんだから、いちいち腹叩いて威嚇しなくていいよ……」

 尊さんに言われ、私はニヤァ……と笑うと、彼に向かってお腹を突き出し、ッパーン! ッパーン! とお腹を叩く。

「コンニャロ」

 尊さんは私の脇腹を両手でくすぐってきる。

「ひひひひひひはははははははは!! やめ……っ、やめっ、ひょーっ!」

 私は身をよじらせて笑い、ソファに倒れ込む。

 尊さんはちょっと興奮した顔で私をくすぐり続け、少ししたあとに「ふー……」と溜め息をついて馬乗りになったまま言う。

「くすぐり師範、免許皆伝に勝てると思うな」

「まさかの免許皆伝!」

 私は脱力してケラケラ笑い、尊さんに手を貸してもらって起き上がった。

「さて、ぼちぼちチェックアウトの支度をしていくか」

「はい!」

「予定では、チェックアウトのあと、梅田駅に行って自由行動でお土産やらの買い物をして、例の大阪土産や、ちょっと手に入りにくいパティスリーの菓子とかを受け取って、ランチ、その他ブラブラ」

「おっ、ブツの引き渡しですね」

「怪しげな取り引きみたいに言うな」

 尊さんはクスクス笑う。

「十五時半のフライトだから、二時間前には空港に着くとして、まぁ、ランチとって少ししてから移動だな」

「アイアイサー!」

 私は意気揚々と荷物を纏めようとして、不意に足を止めて尋ねる。

「……ちなみに現地のお友達に、どんな物を頼んだんですか?」

「おっ、食いついたな。……朱里には美味いもんを食わせたいから、大阪にしかない有名パティスリーのケーキを頼んだよ。複数店舗分依頼したが、『一日、二日で完食できる胃袋があるから大丈夫だ』って言っておいた」

「あはは! 本当だけど、なんか妖怪みたい」

「考える胃袋なんだろ?」

「ひひひ」

 そのあと、私たちは歯磨きをしてパッキングをした。

 そして念入りにお化粧直しをしたあと、十二時のチェックアウトには早いけれど、十時前にはホテルを出た。



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