秘めやかなる初恋 〜姉の許嫁に捧ぐ淡雪〜

第24章:三者面談

志穂の怒りは収まらず、その夜、片桐家は重苦しい空気に包まれた。両親も事態の深刻さに気づき、翌日、家族会議という名の「三者面談」が開かれることになった。リビングルームには、父と母、そして志穂、悠真、雪菜の三人が、それぞれの感情を抱えながら向かい合っていた。
父が、重々しい口調で口火を切った。

「志穂、悠真君、そして雪菜。一体、何があったのか、全て話してもらう」
母も、悲痛な表情で三人の顔を見つめている。
志穂は、憔悴しきった表情で、しかし、強い決意を秘めた瞳で悠真と雪菜を見た。

「私からは、もう何も聞きたくないわ。悠真さん、あなたから全てを説明してちょうだい」
志穂の声は、静かだったが、その背後には、決して許さないという強い意志が感じられた。

悠真は、観念したように、深く息を吸い込んだ。そして、ゆっくりと、しかし淀みなく、全てを語り始めた。
雪菜のプロジェクトでのトラブル、徹夜での共同作業、その際に生まれた「特別な感情」。そして、雪菜からの告白と、彼自身の雪菜への想い。全てを、彼は包み隠さず話した。

「志穂を裏切るような真似をしたこと、心から謝罪する。私自身の弱さが、君を深く傷つけてしまった」
悠真は、志穂に向かって、深く頭を下げた。その言葉には、偽りのない後悔と、そして苦しみが込められていた。
志穂は、悠真の言葉を聞くにつれて、顔色を失っていった。信じていた婚約者と、愛する妹が、自分の知らないところで、そんな関係になっていた。その事実に、志穂の胸は激しく波打った。

「雪菜…あなたも、何か言うことはないの?」
志穂の視線が、雪菜に向けられた。その瞳には、かつての愛情は消え失せ、深い悲しみと、そして妹への裏切りに対する怒りが宿っていた。
雪菜は、顔を上げることができなかった。悠真が全てを話してくれた以上、自分に言い訳の言葉などあるはずもなかった。

「お姉様…ごめんなさい…」
雪菜は、絞り出すような声で、ただ謝罪の言葉を繰り返すしかなかった。涙が、頬を伝い落ちていく。
母は、その光景を見て、泣き崩れた。
「一体、どうしてこんなことに…!?」

父は、顔を真っ赤にして、悠真を睨みつけた。
「一条君!君は、志穂の許嫁でありながら、一体何をしているんだ!雪菜は、志穂の妹だぞ!」
父の怒声が、リビングに響き渡る。
「父さん、母さん…全ては私の不徳の致すところです。志穂を傷つけ、片桐家にも多大なご迷惑をおかけしたこと、深くお詫び申し上げます」

悠真は、両親にも深々と頭を下げた。
「そんな謝罪で済む問題じゃないわ!」
志穂が、感情を爆発させた。
「私と悠真さんの婚約は、どうなるの!?私の気持ちは!?私たちが築き上げてきたものは、全部、嘘だったって言うの!?」

志穂の声は、慟哭にも似ていた。
その言葉は、雪菜の胸に突き刺さり、彼女の罪悪感をさらに深くえぐった。
父は、怒りを押し殺すように、冷たい声で言った。
「一条君。この件に関しては、改めて一条家とも話し合いをさせてもらう。だが、現状、志穂との婚約は、白紙に戻すほかないだろう」

父の言葉に、悠真は、力なく目を閉じた。全てを失う。その現実に、彼は耐えるしかなかった。
「お姉様…」
雪菜は、震える手で志穂の服の裾を掴んだ。
「もう、私に触らないで!」

志穂は、雪菜の手を強く振り払った。その瞳には、憎しみにも似た感情が宿っていた。
「あなたが、私の幸せを壊したのよ!もう、あなたの顔も見たくない!」
志穂の言葉が、雪菜の心を粉々に打ち砕いた。
姉からの拒絶。それは、悠真からの拒絶以上に、雪菜にとって、深い絶望をもたらした。

雪菜は、その場にうずくまり、ただ泣き続けるしかなかった。
三者面談は、修羅場となり、婚約は白紙に戻されることが決定した。
悠真は、愛する者を傷つけ、全てを失うことになった。
志穂は、信頼していた婚約者と妹に裏切られ、深い傷を負った。

雪菜は、自らの恋心によって姉を傷つけ、家族の関係を壊してしまった。
リビングに響く、母のすすり泣く声と、雪菜の嗚咽。
彼らの人生は、今、大きく、そして悲劇的に、舵を切り始めた。
淡雪色の初恋は、ついに、三人の関係を、そして、それぞれの人生を、完全に破壊してしまったのだ。
< 24 / 30 >

この作品をシェア

pagetop