ぶりっ子キャスターと非正規の男

挑戦

挑戦

小枝浩一。ソフトバンクホークスに入団して11年目の30歳である。福岡市にある公立の工業高校を3人は卒業していた。平成16年の夏の全国高校野球大会に出場してベスト8まで勝ち進み。投手だった小枝はプロ野球にスカウトされ入団した。この高校で3人は出会い高校の寮で3年間同じ釜の飯を食べた。小枝浩一は敷かれたレールに乗り夢と言う行き先の列車に乗り終点に辿り着いたが2人は現
在ではフリーターだ。宴会場にざわめきが広がる中、なつみが会場の前方へと向かう。彼女は軽く会釈し、照れくさそうに微笑んだ。その姿はどこか自然体で、テレビで見せる「名物アナウンサー」とは違う一面を感じさせた。俊平は思わず息を飲む。かつて渋谷で出会い、別れたあのなつみが、こんな偶然の再会を果たすことになるとは思ってもみなかった。一方で、努が小枝と話している姿も目に入り、3人が高校時代を共に過ごしたことが思い出された。彼らの間には、高校野球で切磋琢磨し合いながら夢を追いかけた日々がある。小枝はその夢を叶え、プロの野球選手として成功しているが、努と俊平は今も日々を模索し続けている。しかし、不思議なことにその立場の違いが、3人の間に壁を作ることはなかった。宴もたけなわになった頃、努がギターを手に取り、昔からの持ち歌を弾き始めた。それは高校時代、彼らが寮で夜な夜な歌った懐かしいメロディーだった。俊平と小枝も自然と歌声を重ねる。なつみはその様子を微笑ましく見守り、やがて一緒に拍手でリズムを刻んだ。彼女の笑顔には、テレビで見せる華やかさとは違う、どこか温かさと優しさが溢れていた。その夜、俊平はふと思った。自分にはまだ明確な夢や目標は見つかっていないが、こうして仲間と再会し、互いに支え合いながら歩んでいけることが、実は何よりも大切なことかもしれないと感じた。そしていつか、なつみや小枝に誇れる自分でありたいという思いが、俊平の中で新たに芽生えていた。俊平は、開かない扉を何度も叩いていた。その夜、アパートに生命保険の営業のおばさんがやってきた。「俊平ちゃん、紹介したい社長さんがいるの。今度、新しく会社を立ち上げて東京で活動を始めるんだけど、会ってみない?」
俊平は、少し戸惑いながらも頷いた。これまで何度も道が閉ざされ、心が折れかけていた俊平にとって、どこか新しい道を示されるのは心の救いだった。特に、東京での再出発には魅力を感じていた。翌日、営業のおばさんに指定された喫茶店で待っていると、背筋の伸びた50代の男性が現れた。スーツ姿が似合い、温かみのある表情をしたその男性は「社長」と呼ばれていた。彼の名は高橋義和。新しいエンターテインメント関連の会社を設立し、経験豊富な人材を求めているという話を俊平に丁寧に説明してくれた。
「私たちの会社は映像制作だけでなく、クリエイティブなアイディアを持った人材が求められています。俊平くんのこれまでの経験は貴重ですし、きっと役に立つはずです。」
高橋の真摯な言葉に、俊平は少しずつ自信を取り戻していくのを感じた。過去の失敗や辛い経験が頭をよぎったが、それでも自分を必要としてくれる場所があることに希望が湧いてきたのだった。
なつみは、手帳のスケジュールにいまだに空白が多いことが気になり、ふと思い立って俊平に電話をかけた。福岡での出会いを思い返し、もう少し親しく話してみたいという気持ちが湧いてきたのだ。
「もしもし、俊平?…福岡では挨拶だけで終わったからさ、飲み直さない?」
俊平は少し驚いた様子だったが、すぐに応じてくれた。「いいね、ぜひ飲もうよ。いつにしようか?」
なつみは一息つき、空白の多い手帳のページを眺めながら、どのあたりの日がいいか考えた。初めて会話が弾むかもしれない相手との飲み会。彼女の胸に、久しぶりの期待が小さく灯った。俊平は、飲みながら仕事の話を始めた。ふと、先日社長が話していたコマーシャルのモデルのことを思い出し、なつみをじっと見つめた。
「そうだ、なつみさんにぴったりかもしれない話があるんだ。今、うちの社長がコマーシャルに出てくれるモデルを探していてさ。なつみさん、興味ない?」
なつみは驚いた表情で俊平を見返した。「私が…モデル?そんなの考えたことなかったけど…」
俊平は笑って、彼女を励ました。「いや、絶対似合うと思うよ。雰囲気もいいし、きっと話が進むはずだよ。」
なつみは少し考え込んだが、俊平の熱意に押されるように、少しずつ前向きな気持ちになっていった。彼女にとって新しい挑戦の予感が漂い始め、空白の多かったスケジュールに、初めて小さな希望が埋まる瞬間だった。
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