各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果
「早く諦めてもらえるよう。もう少し恋人らしくした方がいいかもしれないね」

 その通りかもしれないが、これ以上どうしたらいいのだろう。

「まずは俺を下の名前で呼んで」
「えっ!」

 思わず声を上げたら、彼は人差し指を唇の前に立て、「しー」と言う。

「役職や名字だと親密感が出ないだろう?」

 言われてみればその通りだ。お見合い相手を跳ねのけるためには、ちょっとやそっとでは揺らがない仲である必要がある。

「じゃあ呼んでみて」
「今ですか⁉」
「どこで聞いているかわからないから」

 まさか尊敬する上司を、名前呼びする日が来るなんて……。

 脈拍が上昇するのを感じながら、意を決して口を開く。

「た……尊さん」

 小さな声で呼んだら、涼やかな奥二重の目がふわりと柔らかく細められた。見惚れるほど美しい微笑みに目がくぎ付けになる。じわりと熱を持った頬を隠すようにうつむいたら、「よくできました」と頭をポンポンと撫でられた。

「さあ、食べよう。ほら、実花子も」

 課長が箸でつまんだピーマンの肉詰めからはがれた肉部分――もはやただのハンバーグ――を、私の前に差し出す。

「えっと……」

 これはもしかして〝あーん〟してという意味⁉

「俺達の仲を見せつけないと」
「うっ……」
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