大好きだった元彼と再会しましたが、私はもう結婚しています。

「い、以前、断ってもいいって……言いましたよね?」
「それはそうなんだけど……」

 穂高が困ったように頭をかく。一瞬、空気が静かに落ち着く。
 そのタイミングで、「ぐううう……」と音が室内に響いた。

「ああっ……!」

 見事なまでに、私のお腹の音が鳴り響いたのだ。
 穂高は吹き出した。

「ハハハ……! タイミング良すぎるだろ。いや、ほんとに」
「笑うところじゃないですよ! 私、もう恥ずかしすぎて死にそうなんですけど!」

「いいじゃないか。お腹は正直で。で、何食べたい?」
「……」

(なんで行く前提になってるの。いや、でも、お腹はすいてるし……)

 再び、ぐう……とお腹が抗議の音を立てる。

「……っ、パスタ!」
「あぁ、じゃあ決まりだな」

 穂高が嬉しそうに笑う。その笑顔に、心臓がまた跳ねた。

(……ほんとにやめて。そんな顔されたら、私が勘違いするでしょうが)

 こんなふうに混乱させてくるなんて、もしかして穂高は別れてから悪い男に成長したのかもしれない。
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