彰人さんが彼女にだけ優しい理由
 彼は、いつも優しい。
 優しくて穏やかで、カッコいい。

 この日、私、奈月こと伊藤奈月は、昼休憩時間に、本社の休憩室のテーブルで、友人ふたりである詩織(しおり)と共に、コンビニで買ったサンドイッチを食べていた。

「あぁ、またメイク崩れてるぅ」

やりきれない、と言った声を上げているのは詩織だ。セミロングの髪を綺麗にカールさせた彼女は、鏡に映った自身の容姿を見て、メイクポーチからブラシとファンデーションを取り出し、追加のメイクを始める。

「“RuRu”のクッションファンデ、それより良いって口コミで見たけど」

私の助言に、それがね、と苦情を口にしようとした彼女、詩織。しかし直後のことだった。
 突如として大声が辺りに響き渡った。控え室傍に現れた女性社員の宮本沙織が私と詩織に向かって大声をかけていたのだ。彼女、宮本は比較的、普段から彼女、詩織と親しく話している社員。私はさほど親しくはない。彼女は驚いていた。

「ヤバイよ!また、商品企画部の天鬼(あまき)さんが喧嘩してる!」

 詩織、そして、私、奈月は驚いて、教控え室から飛び出した。
< 1 / 16 >

この作品をシェア

pagetop