夢幻に消えた君と、存在しない約束の続きを。
「蒼?蒼、どこにいるんだ?」
慌ててベッドから飛び起き、個室の中を見渡すが、返事はない。
いつもなら「おはよう、佑介くん」と微笑んでくれるはずの椅子は、冷たく無機質に佇んでいるだけだった。
僕はふらつく足取りで廊下へ出た。
パジャマのまま、必死に彼女の姿を探す。屋上、談話室、図書室⋯⋯どこにもいない。
最後に辿り着いたのは、一階の購買にあるパン屋の前だった。
「蒼!」
そこには、いつかの冬服を着た彼女が、棚に並んだメロンパンをじっと見つめて立っていた。
「よかった⋯⋯探したんだぞ」
僕が肩で息をしながら駆け寄ると、蒼は悲しげに振り向いた。
周囲には何人もの患者や職員が通り過ぎていく。
けれど、誰一人として彼女に視線を送る者はいない。
彼女を避けようとする動きすらなく、一人の店員が、蒼の体をすり抜けるようにして歩いていった。
「佑介くん⋯⋯。私、ここにいてもいいのかな」
誰の目にも映らない彼女の孤独が、僕の胸をナイフで切り刻む。
僕は迷わず彼女の手を握りしめた。
見えなくたっていい。僕にだけは見えている、この絶望的なまでに美しい光が、僕のすべてなのだから。
「取りあえず部屋に戻ろう、な?」
彼女は頷いて、僕の手を優しく、すこし不安な手で握り返した。