夢幻に消えた君と、存在しない約束の続きを。
「⋯⋯佑介くん、もう、いいよ」
蒼の声は、まるで遠くで鳴る鈴の音のように儚かった。
彼女はゆっくりと立ち上がり、僕のベッドの端に腰掛けた。
重みを感じない。シーツにシワ一つ寄らないその光景が、何よりも僕を絶望させる。
「よくない!よくないよ、蒼!何言ってるんだよ、僕たちはこれからもずっと一緒だって言ったじゃないか⋯⋯」
「うん。全部、私の宝物だよ。⋯⋯でもね、佑介くん。今の私は、佑介くんの命を吸って生きている怪物なんだよ」
蒼は自分の、向こう側が透けて見える体を見つめた。
「私がここにいようとすればするほど、佑介くんの心臓は止まろうとする。佑介くんの脳は、私という夢を見るために、現実の自分を壊していく。⋯⋯そんなの、私の望んだ未来じゃない」
「それでもいい!君がいなくなるくらいなら、僕は壊れたっていい!」
「私は嫌なの!」
蒼が、初めて僕に向かって声を荒らげた。
透けた体から放たれたその言葉は、冷たい空気を切り裂く。
「私が消えるのが怖いんじゃない。佑介くんがいなくなるのが、一番怖いの!私が消えることで佑介くんが助かるなら、私は喜んで消えたい。⋯⋯私ね、決めたの。もう、佑介くんの前に現れない。私という存在を、佑介くんの頭の中から消してほしいの」
「⋯⋯嘘だろ?そんなの、できるわけない」
「できるよ。佑介くんが私を「いないもの」として受け入れれば、脳の負担は減る。小林先生も言ってた。⋯⋯これが、私たちが生き残る唯一の道なんだよ」
彼女の決意は、鋼のように固かった。
僕を救うために、自分という存在を抹消する。それが彼女の選んだ結末だった。
けれど、僕にとってそれは、心臓を素手で握り潰されるよりも残酷な宣告だった。
「勝手だよ⋯⋯そんなの、あんまりだ。君を忘れて生きるなんて、僕には地獄でしかないのに」
僕は必死に彼女の手を握ろうとした。
けれど、僕の指は何度も彼女の手のひらをすり抜け、空しく自分のシーツを掴むだけだった。
触れられない。守れない。その事実が、僕の魂をボロボロに崩していった。