詩音と海と温かいもの
 机を片付けて、歯を磨いた。

 明かりを消して、ベッドで並んで横になった。

 詩音ちゃんはいつもどおり俺の腕に頭を乗せて、胸元に顔をくっつけた。

 クリスマスだからってわけじゃないけど、さっき言われたことが嬉しかったから、詩音ちゃんをそっと抱きしめる。


「俺も起きたときに詩音ちゃんがいてくれるの、すごい幸せなんだけどさ」

「ふふ、嬉しい」


 嬉しそうに擦り寄られたからか、クリスマスにはしゃいだからか、つい口が滑った。


「でも、俺は欲張りだからそれだけじゃ物足りなくて」

「そなの? 詩音にできることならするけど」

「詩音ちゃんが高校を出て、そのときも俺と朝を迎えてくれるなら、そのときにお願いするわ」


 我ながら、キモい甘え方をしたと思う。

 少なくとも、妹の友達である中学生に言うことじゃない。


「んー、子どもだとできないこと?」

「……うん。ごめん、なんでもない。忘れて」


 詩音ちゃんを抱え直して、誤魔化すために少し強く抱きしめた。


「匠海さんが忘れてほしいなら、忘れるけどさ」


 腕の中で、詩音ちゃんがもそもそ動いて顔を上げた。

 詩音ちゃんはそのまま起き上がって、俺の頭を胸に抱いて寝直した。


「匠海さんの迷惑にならないなら、詩音はずっと、一緒にいたいよ。匠海さんのこと、大好きだもの」


 薄い身体が、俺を柔らかく抱きしめた。

 どう受け止めればいいのか、なんて言えばいいのか、なんにもわからない。

 だって、詩音ちゃんの言う「好き」は、俺の想いとは絶対に違う。


「……迷惑に思うことなんて、きっと一生ないと思う」

「そう? じゃあ、また詩音が大人になったら、してほしいこと教えてね」


 優しく言われて、俺の情緒はぐちゃぐちゃで、黙ったまま詩音ちゃんの優しさにすがることしかできなかった。
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