わたしは安福先輩の何ですか?
WHY1.)私は安福先輩のモブ
1.)
安福蒼真先輩には彼女がいる。
そらそーだ、あんなカッコいい人誰もほっとかない。
だから私はモブ、安福先輩からしたらただのモブにすぎない。
そんなの、わかってるんだけど。
「次誰~?誰の番~??」
文化祭が終わったから今日はみんなで打ち上げ、1年生から3年生までの文化祭実行委員みんなでボウリングに来た。
ボウリングなんて小学生の頃、家族と来た以来で久しぶりだ。
鈴木みらの、高校1年生。
ぼぉーっとスコアモニターを見ながら次は誰の番かなぁーって…
「2号!」
名前を呼ばれてハッとした。
いや、名前じゃないんだけど呼ばれてビクッてなった。
「次2号の番だから」
あ、私の番か。
はいっと立ち上がってボールを持った。
ちゃんと投げられるかな、すっごい久しぶりだからちょっと不安だなぁ…
すぅっと息を吸って、ボールを構える。
ボウリングのボールってこんな重かったっけ?
持ってるだけでも結構あれ…
あ、一応真っ直ぐいった!
カーブとかそんな小粋な技は使えないけどキレイに真っ直ぐ転がっていったボールはじゃらじゃらピンを倒した。
「おぉー、2号すごいじゃん!」
9本倒れたからあと1本倒れたらスペア…
で、なぜ私が2号って呼ばれてるかって話ね?
あれは初めて文化祭実行委員会で集まった時、3年生から順番にあいさつしていくんだけど…
3年生にもいたから鈴木が。
ありきたりな苗字だしね、日本で2番目に多いからこんなことはよくあって。
でもちょっと違ったのは、3年の鈴木隼太先輩は超絶イケメンだったってこと。
え、こんな美しい人間っているの!?
って1年生みんな二度見してた。
そんな鈴木先輩がいるから、私は2号になってしまった。
紛らわしいからって、呼んだ時2人振り返ると煩わしいからって。
いや、だったら名前でよくない!?
そんなあだ名嫌なんだけど!
でも気付いたら定着しちゃってた。
「おっ、2号ガターじゃん」
この久保田粋先輩によって。
「…1回目は9本倒れたんで」
「でも2回目ガターはダサいな」
「久保田先輩の1回目も2回目も1本しか倒れてないよりマシです!」
2年生の久保田先輩も鈴木先輩に負けず劣らずなお顔立ちで、今日のミスタコンでは優勝してた。
だから顔がいいのはわかってる、女の子みたいにぷるぷるのくちびるしてるしシュッとした鼻してるし可愛い目してるし…
「鈴木先輩はいきなりのストライクだよ?だから2号って呼ばれるんだよ」
でも性格はちょっとあれだと思うけど。
次の番だった久保田先輩がボールを取りに行く、それを横目に空いてる席を探した。どこか空いてる席にテキトーに座ろうかなって。
てゆーか久保田先輩が2号って呼び出したくせに、じゃあ2号でいいかって全然よくなかったのに!
私にだってちゃんとした名前があるんだけど、そこそこ気に入ってるんだよ?
それなのに誰も呼んでくれないんだ…
「みらのちゃん!」
安福先輩以外。
「惜しかったね~!あともうちょい右にいってたらスペアだった!」
子供みたいに笑う安福先輩は1個上の先輩、絶対に私のことを2号だなんて言わない。
いつだってみらのちゃんって呼んでくれる。
初めて会った時から、ずっと。
「隣座る?空いてるよ」
「座ります!」
やったぁって心の中で喜んで、なるべく顔に出さないように隣に座った。
本日初めての隣の席、そんなのドキドキしないわけがない。
「文化祭楽しかったね」
「はい!すごい楽しかったです!」
「実行委員大変じゃなかった?」
「大変…でしたけど、全然楽しいが勝ってます」
準備とか、クラスまとめるのとか、先輩たちと仲良くできるかなとか心配事はたくさんあったけど…思い出しても楽しいことばかりで勇気出して実行委員になってよかったと思った。
「みらのちゃんがんばってたもんね」
安福先輩に会えたから。
「安福先輩に助けてもらってですよ」
「いやいや、1年生からちゃんとしてるのすごいよ!みらのちゃんが最後まで学校中走り回って連絡伝えてたのとかさ、みらのちゃんの案で実行委員みんなお揃いの缶バッジ作ったのとか俺はすごいなーって思ったよ!」
たぶんね、鈴木先輩や久保田先輩みたいに超絶イケメン…とかではないとは思うの。
だけどね、私には誰よりカッコよくて誰より可愛い先輩なの。
「ありがとうございます!安福先輩に言ってもらえて嬉しいです!」
私のこと見ててくれたんだなって嬉しくなる。
声が優しくて泣きそうになる。
微笑みかけられると、安福先輩の瞳に映りたくなる。
「蒼ちゃん、彼女いるからねー」
「…知ってます」
安福先輩には彼女いる、らしい。
久保田先輩が言うには。
「久保田先輩と安福先輩って中学が一緒なんでしたっけ?」
「そうそう、中3の時同じクラスで意気投合した固い絆で結ばれた仲だよ♡」
投げる順番になった安福先輩が立ち上がったら、そこにさささっと久保田先輩がやって来た。
ボウリングの席ってなんか基本取り合いみたいだよね。
「安福先輩の彼女ってどんな人ですか?」
「かわいいよ」
「即答ですね」
「迷いなくね」
「……。」
それもそうか、あの安福先輩だもんね。
彼女だってかわいいに決まってるよね、きっと性格もいい子なんだよ。
会ったことないけど、知らない人だけど。
そうに決まってるもん。
そんなの勝てないじゃん、私。
安福先輩がスッと背筋を伸ばしてボールを構える。
ゆっくりボールを後ろに振って勢いをつけて一気に投げる。
すごいフォームがキレイだ、投げる姿がキレイ過ぎるずっと見ていたいくらいに。
安福先輩が好き。
全部が好きなの。
好きで好きで、見てると苦しくなるぐらい。
もう後戻りできないよねぇー、まだ大丈夫とか思ってる時なんかなかったけど。
最初から彼女いるだろうとは思ってたけど、そんなのわかってて止められないし止められるようならこんなことになってないし。
「……はぁ」
つきたくもないタメ息が勝手に出て来るし。
ちょっと喉が乾いたから、1ゲーム目が終わった休憩中に飲み物を買いに来た。
ボウリング場の隅っこにある自販機まで、ちなみにこの自販機を超えたらゲームセンターになっていてたくさん人に溢れてる。
ゲーセンも結構人いるし、ビリヤードとかもあるんだへぇ~やったことないなぁ。
何買おっかな、スカッとしたいから炭酸系にしようかな~…
「みらのちゃん何買うの?」
ピッ、と押してしまった。後ろから名前を呼ばれてドキッとした勢いのまま押してしまった。
飲みたくもないブラックコーヒーがガランッと出て来た。
「みらのちゃん、ブラック飲めるんだすごいね」
「……はい」
飲めませんけど、めっちゃくちゃ苦手ですけど。
「俺はコーラにしよ~!」
何それかわいい、子供じゃん。
そんな無邪気な顔で笑っちゃって、キュンとしちゃうじゃん。
だって今、安福先輩と2人きり。
「みんなボウリング上手いよね!あ、クボちゃんはまぁあれだったけど」
「久保田先輩は口だけですね、口だけマンです」
「ね、ほんと」
ケラケラと安福先輩が笑う。
今のは私に笑ったのかな、それとも久保田先輩に笑ったのかな…なんて。
隣にいられるだけでこんなに嬉しくて。
「ねぇ向こう行ってみない?」
ペットボトルのコーラをひとくち飲んだ安福先輩が指さしたのは自販機より向こうにあるゲームセンター、ガヤガヤ賑わってるなぁとは思ってたけど全然行こうとは思ってなくて。
でもこれは誘われたんだよね?
一緒に行こうって言われたんだよね?
そんなの迷うこともなく、0.2秒で答えた。
「行きます!」
安福先輩と2人で、デートでもなんでもないけど2人で…
しかも誘われちゃった!嬉しい!!
あ、顔がニヤける。
ニヤけ過ぎないよう気を付けなくちゃ。
まだ未開封だった缶コーヒーで頬を冷やした、絶対ニヤニヤしてたもん。
「なんか対決しようよ」
「いいですよ!何しますか?」
「みらのちゃん何得意?」
「基本苦手です!」
「選択肢ない!?」
格闘ゲームもリズムゲームも得意なのなんてないけど、安福先輩となら苦手なものなんてない。
ただこうしているだけで、十分で。
「じゃあUFOキャッチャーしよ」
「あーっ、やりたいです!」
「何欲しい?」
「えっとですね、じゃあ…あのクマのキーホルダー!」
手のりサイズくらいのクマのぬいぐるみ、なんとなく安福先輩に似てるなぁって思って。
いや、全然安福先輩のがカッコいんだけどあたりまえにカッコいんだけど…ちょっと目の垂れたほんわかした雰囲気が似てるなぁって。
「よしじゃあ俺からやるね!」
安福先輩が100円を入れる、じーっとガラス越しにクマのぬいぐるみを見て…真剣な瞳もカッコいいって思ったりして。
「この辺かな」
「あ、いいんじゃないですか」
「じゃあいくよ」
トンッとボタンを押した、開いたアームがすーっと下りていってタグのところを引っかけた。
あ、上手い!すっごいキレイに入ってる!
そのまま待ち上げてコロンッとポケットに入った、うさぎのぬいぐるみが。
「はい、みらのちゃんが欲しがったうさぎのキーホルダー!」
「言ってないです、言ってないです!私が欲しがったのはクマのキーホルダーです!」
「そうだっけ?でも似てるよね、うさぎとクマって」
「似てないですよ!久保田先輩みたいなこと言わないでください!」
「確かに、それはよくない」
差し出されたうさぎのぬいぐるみを見ながら笑って、安福先輩も笑って、全然大したことないのにすごく楽しくて。
これだけですごく楽しくて。
手の上に乗ったうさぎのぬいぐるみが世界で1番輝いて見えるの。
本当に欲しかったのはクマだったのに、今このうさぎのぬいぐるみが宝物になった。
「じゃ次みらのちゃんね」
「はい!任せてください!」
ガヤガヤうるさいゲームセンターなのに、安福先輩の声しか聞こえなくて安福先輩と私だけみたい。
今日1番楽しい、文化祭よりも楽しい。
ずっと笑ってるぐらい楽しい、けど…
楽しければ楽しいほど、さみしい。
「結局取れなかったね」
「1回取れたと思ったら、逆いっちゃいましたもんね」
「難易度上がったよね」
胸がキュッとなる、安福先輩が笑ってて嬉しいのに心がさみしくなるの。
そろそろ戻ろうかって、ゲームセンターを出ようとしてふと目についた。定番というかベタというか、ゲームセンターの中にあるもので私の1番好きなもの。
「プリクラ…」
好きな人と撮るプリクラに憧れちゃったりして。
この流れなら言えるかなって、ついでっぽいしなんか今いい感じだし。
わかってるよ、わかってる。
でも一生の記念にするだけだから、だから…
「安福先輩、プリ撮りませんか!?」
本当は心臓バクバクだったけど、ノリみたいな雰囲気を出して安福先輩がいいよって言ってくれたらいいなって。
「それはやめよう」
あぁ、視界が真っ暗になる。
わかってたじゃん、そんなのわかって…
絶対いいよなんて言わないことわかってたよ。
だって安福先輩、彼女いるもんね。
かわいい彼女がいるんだもんね、他の女子とプリなんて撮れないよね。
「ごめん、恥ずかしいから」
恥ずかしいからなんて私を傷付けないような断り方、安福先輩らしいなぁ。
好きだし。そんなこと言われても全然好きだし。
「そうですよね、恥ずかしいですよね」
精一杯笑って返して、気付けかれないフリをして。
うさぎのぬいぐるみを両手できゅっと握った。
安福先輩との思い出はこれで十分だ。
それできっと何年後かに思い出すんだ、あの頃安福先輩のことが好きだったって思い出すの。
エモ、とか思うのかな。
そんな風に、思えるのかな。
「じゃ解散、家に帰るまでが文化祭だからハメ外さないように帰って」
文化祭実行委員長の鈴木先輩のあいさつで打ち上げが終わる、前に立つだけで女子たちみんなキャーキャーでこぞって写真撮ってた。
鈴木先輩も慣れてるのか気にしてなかった、すごい。
あ、そーいえば安福先輩と写真…
プリクラ断られたのに写真も無理だよね。
あぁ~~~…
やっぱプリクラ断られたのきつい~~~~~!
安福先輩的にはどうってこなかった一言だろうけど、やめようって言われたのきついなんか気まずいんだけど。
「……。」
文化祭が終わったから文化祭実行委員で集まるのも今日が最後なんだけどね、そう思ったら別に気まずいとかないんだけどね。
だってもう会うことなくなっちゃうもん、安福先輩と。
それはそれでつらい~~~~!
「2号、どった?よろよろし過ぎじゃん?」
「久保田先輩…」
「え、酔ってる?」
「飲んでませんよ、未成年です」
飲んでるのは嫌いなブラックコーヒーだし、慣れない苦みに顔が引きつっちゃう。
「酔ってんなら送っていこうか?」
「酔ってませんからひとりで帰れます」
せめて思い出に浸りながら帰るよ、あー楽しかったなぁ文化祭…ってね。
安福先輩と2ショット写真はないけどみんなでいっぱい写真は撮ったから、見返しながら帰ろうかな。
やばい、泣きそうかも。
もう泣きそうかも、みんなと別れて歩き出したらなんか急にスイッチ入っちゃった。
暗くなった夜道を1人、とぼとぼ歩いて。
早く帰りたいような、帰りたくないような、帰ったら終わっちゃうんだもんね文化祭。
「あ、この安福先輩…」
「すっげぇー微妙な顔してない?」
立ち止まってスマホで写真を見てたら隣からひょこっと現れた。
写真より目を細めて、険しい顔をしてる…
「安福先輩!?」
「誰これ撮ったの?もうちょいいい感じの時に撮ってほしいよね、半開きじゃん」
「あああああ安福先輩…っ」
「みらのちゃんはいい顔してるね、楽しそう!」
これは安福先輩の隣で喜んじゃってる気持ちが出ちゃってるから、当の安福先輩はタイミングミスってるけど。
いや、そんなことより…!
「安福先輩って…こっちなんですか?帰り道」
「うん、だいたい」
そうなんだ、知らなかった!
みんなバラバラに帰っていったからそうゆうの気にしてなくて、だって安福先輩となんて想像もしてなかったから…
「一緒に帰らない?」
嬉しい、楽しい、嬉しい…
でも少しだけ切ないのは、どうすればいいのかな?
「帰ります!」
ただただドキドキしてる気持ちだけ考えたいのに、チクチク胸が痛むの。
「これめっちゃいい写真じゃん」
「いいですよね!さりげない1枚って感じで!」
「撮るの上手いよね、これ誰が撮ったんだろ?」
「たぶんハッチです、1年の鉢本」
「センスあるね!」
みんなで撮り合った写真を送り合って、思い返しながら安福先輩と歩いた。
写真を見ながら歩いたらいつもより少し遅く帰路に着くんじゃないかって、少しでも長く安福先輩と一緒にいたくて。
だけどそんなに遠い距離じゃないから、しゃべってたら家の前はすぐそこで。
「あ、安福先輩もうここで…家そこなんで」
「家の前まで送ってくよ、もう遅いし」
「大丈夫です!というか、安福先輩ん家はどこなんですか?うちより遠いんですか?」
「あー…うちは…」
「……。」
「…?」
ん?今後ろ振り返った?
家どこなんですかって聞いたら後ろ向いてじーっと遠くを見て…
「え、こっちじゃないんですか!?」
あ、もしかしてそーゆうこと!?通り過ぎたってこと!?
話過ぎたからだ!
私がとめどなく話してるから安福先輩帰るタイミング失って、安福先輩タイミング計るの苦手だから…っ
「すみません!全然気付かなくてっ」
「ううん、こっちもついでだったから」
「ついでじゃないですよね!?だって…っ」
安福先輩と目を合わせる。
暗くなった夜道、ちらほらとしか街灯がない。
「…送ってくれたんですか?」
そんなに都会でもないから、駅を離れたら明かりが何もなくなるの。
「だって心配じゃん、みらのちゃん1人で帰るの」
そんな顔、しないでください。
そんな顔で私のこと見ないでください。
溢れちゃうから、必死に抑え込んでる気持ちが溢れちゃうから。
「家そこなんでしょ、そこまで送ってくよ」
安福先輩が歩き出す、私の前をゆっくりと。
安福先輩の背中好きだなぁ、なんかあったかくて抱きしめたくなるの。
ううん、背中だけじゃない。
顔だって声だって手だってなんだって、好きだよ安福先輩。
そのやさしいところも大好きだよ。
「安福先輩…」
今好きだって言ったらどうなるのかな?
「みらのちゃん?どうしたの?」
わかってる、わかってるよ。
だけど、あの頃好きだったなんて思えないよ。
ずっと好きだよ、あの頃なんて振り返りたくない。
安福先輩がほしい。
かわいい彼女のものなんて嫌だよ、私の安福先輩になってよ。
「安福先輩、やさしくしないでください…っ」
でも私のものにならないならそんなこと言わないで。
「安福先輩ずるいです、そうやってやさしくするのずるいですっ」
「え、みらのちゃんどうした?」
「やさしくしたらダメです、もっと突き放してもっと嫌だって言ってくれないとっ」
「え、何が!?なんで!?」
「だってそんなの…っ」
溢れちゃう、涙がぽろぽろって。
「好きになっちゃうじゃないですか…!」
取り返しつかないよ、もう手遅れだよ。
どうしようもないのに、好きだって言っても何もならないのに。
「みらのちゃん、あの…っ」
困らせるだけだってわかってる。
だけどもう、これ以上私の中に入って来ないで。
「安福先輩彼女いるんですよね!?」
初めて会った時から安福先輩には彼女がいた。
そんなのどうしようもないじゃん、私何にもできないじゃん。
私だってもっと早く出会いたかったよ、かわいい彼女より先に安福先輩に出会いたかった。
そしたら何か変わってたかな?
かわいい彼女だもんね、私に勝ち目なんかないかもしれないけど…
それでも、誰よりも安福先輩のことが好きな自信だけはあるの。
だから安福先輩、私―…
「え、いないよ?」
…………は?
安福先輩が眉間にしわを寄せたから、私まで同じ顔をしてしまった。
え、なんて言いました?
めちゃくちゃ目をパチパチしてくるんですけど。
「彼女いないんだけど」
彼女、いない…?って言いました??
「えぇぇぇっ!?」
「俺彼女いないんだけど、なんでいることになってるの?」
「久保田先輩言ってましたよ、安福先輩にはかわいい彼女がいるって!」
「いないし、しかもかわいいって勝手に人の彼女像作らないでよ」
「いやいやいや、嘘ですよ!安福先輩に彼女いないわけないですもん!!」
だってだってあの安福先輩だよ!?
こんな人、誰もほっとかないよ!?
なんで彼女いないの?
意味わかんないよ!なんで…っ
「信じてないの?」
「え、いえ…っ、そうじゃないですけど…だって久保田先輩が…」
待って待って…
じゃあどうゆうこと?今これどんな状況なの?
あんなに泣いてた涙が焦ってどっかいった。
頭ん中ぐるぐるで目まで回りそう、こんな人通りの少ない道端で。
一歩私に安福先輩が近付いた。
少し身をかがめて、私に近付いた。
「俺とクボちゃん、どっち信じるの?」
顔が熱くなる、街灯が少なくてよかった顔が見られなくてよかった。
いや、よくない!よくないよ…!
だって、だって…
「帰ろっか、みらのちゃん」
安福先輩には彼女がいないらしい。
かわいい彼女はいなかったらしい。
じゃあ私は?
私は安福先輩の何ですか…?
そらそーだ、あんなカッコいい人誰もほっとかない。
だから私はモブ、安福先輩からしたらただのモブにすぎない。
そんなの、わかってるんだけど。
「次誰~?誰の番~??」
文化祭が終わったから今日はみんなで打ち上げ、1年生から3年生までの文化祭実行委員みんなでボウリングに来た。
ボウリングなんて小学生の頃、家族と来た以来で久しぶりだ。
鈴木みらの、高校1年生。
ぼぉーっとスコアモニターを見ながら次は誰の番かなぁーって…
「2号!」
名前を呼ばれてハッとした。
いや、名前じゃないんだけど呼ばれてビクッてなった。
「次2号の番だから」
あ、私の番か。
はいっと立ち上がってボールを持った。
ちゃんと投げられるかな、すっごい久しぶりだからちょっと不安だなぁ…
すぅっと息を吸って、ボールを構える。
ボウリングのボールってこんな重かったっけ?
持ってるだけでも結構あれ…
あ、一応真っ直ぐいった!
カーブとかそんな小粋な技は使えないけどキレイに真っ直ぐ転がっていったボールはじゃらじゃらピンを倒した。
「おぉー、2号すごいじゃん!」
9本倒れたからあと1本倒れたらスペア…
で、なぜ私が2号って呼ばれてるかって話ね?
あれは初めて文化祭実行委員会で集まった時、3年生から順番にあいさつしていくんだけど…
3年生にもいたから鈴木が。
ありきたりな苗字だしね、日本で2番目に多いからこんなことはよくあって。
でもちょっと違ったのは、3年の鈴木隼太先輩は超絶イケメンだったってこと。
え、こんな美しい人間っているの!?
って1年生みんな二度見してた。
そんな鈴木先輩がいるから、私は2号になってしまった。
紛らわしいからって、呼んだ時2人振り返ると煩わしいからって。
いや、だったら名前でよくない!?
そんなあだ名嫌なんだけど!
でも気付いたら定着しちゃってた。
「おっ、2号ガターじゃん」
この久保田粋先輩によって。
「…1回目は9本倒れたんで」
「でも2回目ガターはダサいな」
「久保田先輩の1回目も2回目も1本しか倒れてないよりマシです!」
2年生の久保田先輩も鈴木先輩に負けず劣らずなお顔立ちで、今日のミスタコンでは優勝してた。
だから顔がいいのはわかってる、女の子みたいにぷるぷるのくちびるしてるしシュッとした鼻してるし可愛い目してるし…
「鈴木先輩はいきなりのストライクだよ?だから2号って呼ばれるんだよ」
でも性格はちょっとあれだと思うけど。
次の番だった久保田先輩がボールを取りに行く、それを横目に空いてる席を探した。どこか空いてる席にテキトーに座ろうかなって。
てゆーか久保田先輩が2号って呼び出したくせに、じゃあ2号でいいかって全然よくなかったのに!
私にだってちゃんとした名前があるんだけど、そこそこ気に入ってるんだよ?
それなのに誰も呼んでくれないんだ…
「みらのちゃん!」
安福先輩以外。
「惜しかったね~!あともうちょい右にいってたらスペアだった!」
子供みたいに笑う安福先輩は1個上の先輩、絶対に私のことを2号だなんて言わない。
いつだってみらのちゃんって呼んでくれる。
初めて会った時から、ずっと。
「隣座る?空いてるよ」
「座ります!」
やったぁって心の中で喜んで、なるべく顔に出さないように隣に座った。
本日初めての隣の席、そんなのドキドキしないわけがない。
「文化祭楽しかったね」
「はい!すごい楽しかったです!」
「実行委員大変じゃなかった?」
「大変…でしたけど、全然楽しいが勝ってます」
準備とか、クラスまとめるのとか、先輩たちと仲良くできるかなとか心配事はたくさんあったけど…思い出しても楽しいことばかりで勇気出して実行委員になってよかったと思った。
「みらのちゃんがんばってたもんね」
安福先輩に会えたから。
「安福先輩に助けてもらってですよ」
「いやいや、1年生からちゃんとしてるのすごいよ!みらのちゃんが最後まで学校中走り回って連絡伝えてたのとかさ、みらのちゃんの案で実行委員みんなお揃いの缶バッジ作ったのとか俺はすごいなーって思ったよ!」
たぶんね、鈴木先輩や久保田先輩みたいに超絶イケメン…とかではないとは思うの。
だけどね、私には誰よりカッコよくて誰より可愛い先輩なの。
「ありがとうございます!安福先輩に言ってもらえて嬉しいです!」
私のこと見ててくれたんだなって嬉しくなる。
声が優しくて泣きそうになる。
微笑みかけられると、安福先輩の瞳に映りたくなる。
「蒼ちゃん、彼女いるからねー」
「…知ってます」
安福先輩には彼女いる、らしい。
久保田先輩が言うには。
「久保田先輩と安福先輩って中学が一緒なんでしたっけ?」
「そうそう、中3の時同じクラスで意気投合した固い絆で結ばれた仲だよ♡」
投げる順番になった安福先輩が立ち上がったら、そこにさささっと久保田先輩がやって来た。
ボウリングの席ってなんか基本取り合いみたいだよね。
「安福先輩の彼女ってどんな人ですか?」
「かわいいよ」
「即答ですね」
「迷いなくね」
「……。」
それもそうか、あの安福先輩だもんね。
彼女だってかわいいに決まってるよね、きっと性格もいい子なんだよ。
会ったことないけど、知らない人だけど。
そうに決まってるもん。
そんなの勝てないじゃん、私。
安福先輩がスッと背筋を伸ばしてボールを構える。
ゆっくりボールを後ろに振って勢いをつけて一気に投げる。
すごいフォームがキレイだ、投げる姿がキレイ過ぎるずっと見ていたいくらいに。
安福先輩が好き。
全部が好きなの。
好きで好きで、見てると苦しくなるぐらい。
もう後戻りできないよねぇー、まだ大丈夫とか思ってる時なんかなかったけど。
最初から彼女いるだろうとは思ってたけど、そんなのわかってて止められないし止められるようならこんなことになってないし。
「……はぁ」
つきたくもないタメ息が勝手に出て来るし。
ちょっと喉が乾いたから、1ゲーム目が終わった休憩中に飲み物を買いに来た。
ボウリング場の隅っこにある自販機まで、ちなみにこの自販機を超えたらゲームセンターになっていてたくさん人に溢れてる。
ゲーセンも結構人いるし、ビリヤードとかもあるんだへぇ~やったことないなぁ。
何買おっかな、スカッとしたいから炭酸系にしようかな~…
「みらのちゃん何買うの?」
ピッ、と押してしまった。後ろから名前を呼ばれてドキッとした勢いのまま押してしまった。
飲みたくもないブラックコーヒーがガランッと出て来た。
「みらのちゃん、ブラック飲めるんだすごいね」
「……はい」
飲めませんけど、めっちゃくちゃ苦手ですけど。
「俺はコーラにしよ~!」
何それかわいい、子供じゃん。
そんな無邪気な顔で笑っちゃって、キュンとしちゃうじゃん。
だって今、安福先輩と2人きり。
「みんなボウリング上手いよね!あ、クボちゃんはまぁあれだったけど」
「久保田先輩は口だけですね、口だけマンです」
「ね、ほんと」
ケラケラと安福先輩が笑う。
今のは私に笑ったのかな、それとも久保田先輩に笑ったのかな…なんて。
隣にいられるだけでこんなに嬉しくて。
「ねぇ向こう行ってみない?」
ペットボトルのコーラをひとくち飲んだ安福先輩が指さしたのは自販機より向こうにあるゲームセンター、ガヤガヤ賑わってるなぁとは思ってたけど全然行こうとは思ってなくて。
でもこれは誘われたんだよね?
一緒に行こうって言われたんだよね?
そんなの迷うこともなく、0.2秒で答えた。
「行きます!」
安福先輩と2人で、デートでもなんでもないけど2人で…
しかも誘われちゃった!嬉しい!!
あ、顔がニヤける。
ニヤけ過ぎないよう気を付けなくちゃ。
まだ未開封だった缶コーヒーで頬を冷やした、絶対ニヤニヤしてたもん。
「なんか対決しようよ」
「いいですよ!何しますか?」
「みらのちゃん何得意?」
「基本苦手です!」
「選択肢ない!?」
格闘ゲームもリズムゲームも得意なのなんてないけど、安福先輩となら苦手なものなんてない。
ただこうしているだけで、十分で。
「じゃあUFOキャッチャーしよ」
「あーっ、やりたいです!」
「何欲しい?」
「えっとですね、じゃあ…あのクマのキーホルダー!」
手のりサイズくらいのクマのぬいぐるみ、なんとなく安福先輩に似てるなぁって思って。
いや、全然安福先輩のがカッコいんだけどあたりまえにカッコいんだけど…ちょっと目の垂れたほんわかした雰囲気が似てるなぁって。
「よしじゃあ俺からやるね!」
安福先輩が100円を入れる、じーっとガラス越しにクマのぬいぐるみを見て…真剣な瞳もカッコいいって思ったりして。
「この辺かな」
「あ、いいんじゃないですか」
「じゃあいくよ」
トンッとボタンを押した、開いたアームがすーっと下りていってタグのところを引っかけた。
あ、上手い!すっごいキレイに入ってる!
そのまま待ち上げてコロンッとポケットに入った、うさぎのぬいぐるみが。
「はい、みらのちゃんが欲しがったうさぎのキーホルダー!」
「言ってないです、言ってないです!私が欲しがったのはクマのキーホルダーです!」
「そうだっけ?でも似てるよね、うさぎとクマって」
「似てないですよ!久保田先輩みたいなこと言わないでください!」
「確かに、それはよくない」
差し出されたうさぎのぬいぐるみを見ながら笑って、安福先輩も笑って、全然大したことないのにすごく楽しくて。
これだけですごく楽しくて。
手の上に乗ったうさぎのぬいぐるみが世界で1番輝いて見えるの。
本当に欲しかったのはクマだったのに、今このうさぎのぬいぐるみが宝物になった。
「じゃ次みらのちゃんね」
「はい!任せてください!」
ガヤガヤうるさいゲームセンターなのに、安福先輩の声しか聞こえなくて安福先輩と私だけみたい。
今日1番楽しい、文化祭よりも楽しい。
ずっと笑ってるぐらい楽しい、けど…
楽しければ楽しいほど、さみしい。
「結局取れなかったね」
「1回取れたと思ったら、逆いっちゃいましたもんね」
「難易度上がったよね」
胸がキュッとなる、安福先輩が笑ってて嬉しいのに心がさみしくなるの。
そろそろ戻ろうかって、ゲームセンターを出ようとしてふと目についた。定番というかベタというか、ゲームセンターの中にあるもので私の1番好きなもの。
「プリクラ…」
好きな人と撮るプリクラに憧れちゃったりして。
この流れなら言えるかなって、ついでっぽいしなんか今いい感じだし。
わかってるよ、わかってる。
でも一生の記念にするだけだから、だから…
「安福先輩、プリ撮りませんか!?」
本当は心臓バクバクだったけど、ノリみたいな雰囲気を出して安福先輩がいいよって言ってくれたらいいなって。
「それはやめよう」
あぁ、視界が真っ暗になる。
わかってたじゃん、そんなのわかって…
絶対いいよなんて言わないことわかってたよ。
だって安福先輩、彼女いるもんね。
かわいい彼女がいるんだもんね、他の女子とプリなんて撮れないよね。
「ごめん、恥ずかしいから」
恥ずかしいからなんて私を傷付けないような断り方、安福先輩らしいなぁ。
好きだし。そんなこと言われても全然好きだし。
「そうですよね、恥ずかしいですよね」
精一杯笑って返して、気付けかれないフリをして。
うさぎのぬいぐるみを両手できゅっと握った。
安福先輩との思い出はこれで十分だ。
それできっと何年後かに思い出すんだ、あの頃安福先輩のことが好きだったって思い出すの。
エモ、とか思うのかな。
そんな風に、思えるのかな。
「じゃ解散、家に帰るまでが文化祭だからハメ外さないように帰って」
文化祭実行委員長の鈴木先輩のあいさつで打ち上げが終わる、前に立つだけで女子たちみんなキャーキャーでこぞって写真撮ってた。
鈴木先輩も慣れてるのか気にしてなかった、すごい。
あ、そーいえば安福先輩と写真…
プリクラ断られたのに写真も無理だよね。
あぁ~~~…
やっぱプリクラ断られたのきつい~~~~~!
安福先輩的にはどうってこなかった一言だろうけど、やめようって言われたのきついなんか気まずいんだけど。
「……。」
文化祭が終わったから文化祭実行委員で集まるのも今日が最後なんだけどね、そう思ったら別に気まずいとかないんだけどね。
だってもう会うことなくなっちゃうもん、安福先輩と。
それはそれでつらい~~~~!
「2号、どった?よろよろし過ぎじゃん?」
「久保田先輩…」
「え、酔ってる?」
「飲んでませんよ、未成年です」
飲んでるのは嫌いなブラックコーヒーだし、慣れない苦みに顔が引きつっちゃう。
「酔ってんなら送っていこうか?」
「酔ってませんからひとりで帰れます」
せめて思い出に浸りながら帰るよ、あー楽しかったなぁ文化祭…ってね。
安福先輩と2ショット写真はないけどみんなでいっぱい写真は撮ったから、見返しながら帰ろうかな。
やばい、泣きそうかも。
もう泣きそうかも、みんなと別れて歩き出したらなんか急にスイッチ入っちゃった。
暗くなった夜道を1人、とぼとぼ歩いて。
早く帰りたいような、帰りたくないような、帰ったら終わっちゃうんだもんね文化祭。
「あ、この安福先輩…」
「すっげぇー微妙な顔してない?」
立ち止まってスマホで写真を見てたら隣からひょこっと現れた。
写真より目を細めて、険しい顔をしてる…
「安福先輩!?」
「誰これ撮ったの?もうちょいいい感じの時に撮ってほしいよね、半開きじゃん」
「あああああ安福先輩…っ」
「みらのちゃんはいい顔してるね、楽しそう!」
これは安福先輩の隣で喜んじゃってる気持ちが出ちゃってるから、当の安福先輩はタイミングミスってるけど。
いや、そんなことより…!
「安福先輩って…こっちなんですか?帰り道」
「うん、だいたい」
そうなんだ、知らなかった!
みんなバラバラに帰っていったからそうゆうの気にしてなくて、だって安福先輩となんて想像もしてなかったから…
「一緒に帰らない?」
嬉しい、楽しい、嬉しい…
でも少しだけ切ないのは、どうすればいいのかな?
「帰ります!」
ただただドキドキしてる気持ちだけ考えたいのに、チクチク胸が痛むの。
「これめっちゃいい写真じゃん」
「いいですよね!さりげない1枚って感じで!」
「撮るの上手いよね、これ誰が撮ったんだろ?」
「たぶんハッチです、1年の鉢本」
「センスあるね!」
みんなで撮り合った写真を送り合って、思い返しながら安福先輩と歩いた。
写真を見ながら歩いたらいつもより少し遅く帰路に着くんじゃないかって、少しでも長く安福先輩と一緒にいたくて。
だけどそんなに遠い距離じゃないから、しゃべってたら家の前はすぐそこで。
「あ、安福先輩もうここで…家そこなんで」
「家の前まで送ってくよ、もう遅いし」
「大丈夫です!というか、安福先輩ん家はどこなんですか?うちより遠いんですか?」
「あー…うちは…」
「……。」
「…?」
ん?今後ろ振り返った?
家どこなんですかって聞いたら後ろ向いてじーっと遠くを見て…
「え、こっちじゃないんですか!?」
あ、もしかしてそーゆうこと!?通り過ぎたってこと!?
話過ぎたからだ!
私がとめどなく話してるから安福先輩帰るタイミング失って、安福先輩タイミング計るの苦手だから…っ
「すみません!全然気付かなくてっ」
「ううん、こっちもついでだったから」
「ついでじゃないですよね!?だって…っ」
安福先輩と目を合わせる。
暗くなった夜道、ちらほらとしか街灯がない。
「…送ってくれたんですか?」
そんなに都会でもないから、駅を離れたら明かりが何もなくなるの。
「だって心配じゃん、みらのちゃん1人で帰るの」
そんな顔、しないでください。
そんな顔で私のこと見ないでください。
溢れちゃうから、必死に抑え込んでる気持ちが溢れちゃうから。
「家そこなんでしょ、そこまで送ってくよ」
安福先輩が歩き出す、私の前をゆっくりと。
安福先輩の背中好きだなぁ、なんかあったかくて抱きしめたくなるの。
ううん、背中だけじゃない。
顔だって声だって手だってなんだって、好きだよ安福先輩。
そのやさしいところも大好きだよ。
「安福先輩…」
今好きだって言ったらどうなるのかな?
「みらのちゃん?どうしたの?」
わかってる、わかってるよ。
だけど、あの頃好きだったなんて思えないよ。
ずっと好きだよ、あの頃なんて振り返りたくない。
安福先輩がほしい。
かわいい彼女のものなんて嫌だよ、私の安福先輩になってよ。
「安福先輩、やさしくしないでください…っ」
でも私のものにならないならそんなこと言わないで。
「安福先輩ずるいです、そうやってやさしくするのずるいですっ」
「え、みらのちゃんどうした?」
「やさしくしたらダメです、もっと突き放してもっと嫌だって言ってくれないとっ」
「え、何が!?なんで!?」
「だってそんなの…っ」
溢れちゃう、涙がぽろぽろって。
「好きになっちゃうじゃないですか…!」
取り返しつかないよ、もう手遅れだよ。
どうしようもないのに、好きだって言っても何もならないのに。
「みらのちゃん、あの…っ」
困らせるだけだってわかってる。
だけどもう、これ以上私の中に入って来ないで。
「安福先輩彼女いるんですよね!?」
初めて会った時から安福先輩には彼女がいた。
そんなのどうしようもないじゃん、私何にもできないじゃん。
私だってもっと早く出会いたかったよ、かわいい彼女より先に安福先輩に出会いたかった。
そしたら何か変わってたかな?
かわいい彼女だもんね、私に勝ち目なんかないかもしれないけど…
それでも、誰よりも安福先輩のことが好きな自信だけはあるの。
だから安福先輩、私―…
「え、いないよ?」
…………は?
安福先輩が眉間にしわを寄せたから、私まで同じ顔をしてしまった。
え、なんて言いました?
めちゃくちゃ目をパチパチしてくるんですけど。
「彼女いないんだけど」
彼女、いない…?って言いました??
「えぇぇぇっ!?」
「俺彼女いないんだけど、なんでいることになってるの?」
「久保田先輩言ってましたよ、安福先輩にはかわいい彼女がいるって!」
「いないし、しかもかわいいって勝手に人の彼女像作らないでよ」
「いやいやいや、嘘ですよ!安福先輩に彼女いないわけないですもん!!」
だってだってあの安福先輩だよ!?
こんな人、誰もほっとかないよ!?
なんで彼女いないの?
意味わかんないよ!なんで…っ
「信じてないの?」
「え、いえ…っ、そうじゃないですけど…だって久保田先輩が…」
待って待って…
じゃあどうゆうこと?今これどんな状況なの?
あんなに泣いてた涙が焦ってどっかいった。
頭ん中ぐるぐるで目まで回りそう、こんな人通りの少ない道端で。
一歩私に安福先輩が近付いた。
少し身をかがめて、私に近付いた。
「俺とクボちゃん、どっち信じるの?」
顔が熱くなる、街灯が少なくてよかった顔が見られなくてよかった。
いや、よくない!よくないよ…!
だって、だって…
「帰ろっか、みらのちゃん」
安福先輩には彼女がいないらしい。
かわいい彼女はいなかったらしい。
じゃあ私は?
私は安福先輩の何ですか…?


