『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―
そしてその夜も
エルヴィンはコツコツとミシンに向き合う。

「急がなければ……」

指先は自然と、
布を触り、糸を通していた。

バイロンの奇抜で冷たいデザイン。
シルヴィアの肌に傷を作る装飾。
心を蝕む名声の光。
――あんなもの、服じゃない。

エルヴィンの胸に、熱いものが灯る。
(シルヴィアには……本当に似合うものを着てほしい)

沸き上がってくるのは、
糸を引く指が震えるほどの愛しさ。

(彼女の肌に優しい布で。
 彼女が、自分を嫌いにならないような色で。
 彼女が……心から笑ってくれるデザインで)

誰のためでもない。
ただ、シルヴィアひとりのための一着。

夜ごと、
エルヴィンはランプの下で布を裁ち、
縫い合わせた。

亡命の準備という現実の裏で
もう一つの“愛の準備” が、
密かに、そして着実に進んでいたのである。
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