『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―
そんな危機を何度も乗り越えながら、
3人の逃避行は続いた。

王都から離れるほど、
空気は澄んでいく。
遠くに見えるのは、
ラノイ侯爵領の穏やかな丘陵地帯。

農民たちは懸命に畑を守り、
エルヴィンがどれだけ普段から領民を気遣っていたかを、
シルヴィアは間近で見て知っていた。

そして──

街道沿いの小さな集落に差し掛かったとき。

「……エルヴィン様!?よくぞご無事で!」

年老いた女性が目に涙を浮かべた。
彼女は“パン屋の女将さん”として
エルヴィンが幼い頃から知る存在。

エルヴィンは帽子を取って頭を下げる。

「しばらく匿ってほしい。
……難しい状況でね。」

女性は即座に頷き、
村の男たちに声をかけた。

「エルヴィン様が“困っとる”んだよ!
あんたら、何してるんだい! 早く奥へご案内しておやり!!」

村人は次々と集まってきた。
若者も、子どもも、老人も。

「馬車は納屋の奥に隠すよ!」
「夜は物資を運んでやる。」
「抜け道があるんだ、昔の軍道でな。外からはわからん」

まるで“領民総出の救出作戦”のようだった。

シルヴィアは涙をこぼした。
「エルヴィン様……みんなが、あなたのために……」

エルヴィンは静かに微笑んだ。
「俺が守ってきたものが、今度は俺たちを守ってくれる……。これが──因果応報、ということかもしれないね。」

彼が言うその声は少し震えていた。
だが、その震えは恐怖ではなく、
“報われた温かさ”の震えだった。
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