落とされる気なんてなかったのに

《第12話 玲央と二人きりの帰り道 → 先生からの電話》

玲央くんに手を引かれたまま、
 私は校舎の外へ連れ出された。

(どうしよう……
 先生、あんな顔してた……)

 振り払えなかった。
 拒めなかった。

 玲央くんの手は温かくて、
 握り返すたび胸が苦しくなる。

「七海、どっか寄ってく?」

「え……今日……?」

「帰りづらいだろ、あのままだと」

 図星だった。

(先生に……どうしていいか分からない……)

 そんな七海の気持ちを、
 玲央くんは全部見抜いていた。

「七海」

「……うん」

「迷ってんの、バレバレ」

「……っ」

「でもな」

 玲央くんは少し笑って、
 私の手をそっと自分の胸に触れさせる。

「俺の前で迷う顔すんの……嫌いじゃねぇよ」

「……!」

「それだけ、俺のこと考えてるって証拠だから」

(ズルいよ……そんな言い方……)

 胸が熱くなって、
 言い返せなかった。

「七海」

 名前を呼ばれるたび、
 心臓が跳ねて苦しい。

「今日、帰り道……俺だけ見てろよ」

(そんな……)

「……うん」

 言わされてしまった。
 でも、嫌じゃなかった。

***

 胸ポケットでスマホが震える。

 画面を見ると——

《はるま先生》

(っ……!
 なんで……今……!?)

「誰」

「え、あ……」

 玲央くんが覗き込む。
 私は慌てて画面を隠したけど、
 玲央くんの目はすでに見てしまっていた。

「……先生か」

「ち、違……」

「違うの?」

「……違わないけど……っ」

 玲央くんの表情が僅かに陰った。

「出んなよ」

「え……」

「今、俺と一緒にいんのに
 他の男の電話出んな」

「せ、先生は……その……」

「“先生”であってもだよ」

 声は低いのに、
 怒っているわけじゃなくて、
 “俺を選べ”と静かに迫るような響き。

(どうしよう……出たほうが……)

 そう思って指に力が入った瞬間——
 玲央くんの手が私の手首を掴む。

「七海」

 触れるだけじゃない、
 “止める”強さ。

「出たら……俺、聞きたくねぇこと聞くかもしれねぇぞ」

「っ……」

 胸がざわついた瞬間、
 電話は切れた。

(先生……)

 画面に残る“着信に気づいていますか?”の文字が痛い。

「七海」

「……なに……?」

「帰り道くらい……俺だけ見ろよ」

 玲央くんの声が、
 胸の奥にじんわり落ちた。

(……どうして私は……
 どんどん玲央くんに傾いていくの……)
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