落とされる気なんてなかったのに

《 どうして私は、どちらの手も振り払えなかったのか——気づく回》

家に着いて部屋に戻ると、
 私はベッドに倒れ込んだ。

「はぁ……」

 今日一日、心臓が痛いくらい動いていた。

(先生の手も……
 玲央くんの手も……
 どっちも振り払えなかった……)

 それがずっと胸につかえていた。

(なんで……?)

 目を閉じると、
 ふたりの表情が交互に浮かぶ。

 先生の
「話を聞かせてください」
 という優しい声。

 玲央くんの
「俺だけ見ろよ」
 という甘い低音。

(どっちにも……
 傷ついてほしくない)

 それが私の本心だ。

(選べない理由……
 それだったんだ)

 どちらか一方を選ぶということは、
 片方を“必ず傷つける”ということ。

(そんなの……
 今の私には……できないよ……)

 瞳に涙がにじむ。

(玲央くんの告白……
 本当は嬉しかったのに……)

 胸に手を当ててみる。

(でも、先生への気持ちも……
 ゼロになってない)

 分かってしまった。

(私……
 どっちも大事なんだ……)

 選ぶには、
 まだ痛すぎる。

「……どうしたら……いいの……」

 夜の部屋で、
 答えの出ない問いだけが響いた。
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