五つ子家庭教師は全員イケメン執事でした

第8話 四男・王子様の優しさと、三男・無口男子の秘密の気遣い

学校から帰ってきたあやめは、
なんとなく気分が優れなくて、靴を脱ぐ動きもゆっくりだった。

玄関で四男・律が笑顔で迎えてくれる。

「おかえりなさい、あやめさん。……今日は、少し元気ありませんね?」

「えっ……分かる?」

「もちろん。表情にすぐ出ますから」

律の声はやわらかくて、
そのまま手を引かれるようにリビングへ。

「少し休みましょう。温かい紅茶を用意しますね」

ソファに座ると、律がそっと前髪を整えてくれる。

「……?」

「少し目が赤いんですね。無理しなくていいですよ」

ドキン。

律はまるで心の奥まで見透かしてくる。

そのとき、
リビングの隅で静かに掃除機を止める気配があった。

三男・蒼真が、無言でこちらを見ていた。

「蒼真。今日のあやめさん、気づいてたよね?」

律が問いかけると、蒼真は少し視線を逸らしながら言った。

「……帰ってきたとき、歩き方が、重かった」

「歩き方……?」

「元気な日は、もっと足音が軽い」

その観察の細かさに、あやめは驚いた。

「蒼真……そんなところまで見てたの?」

蒼真は照れくさそうに小さく答える。

「……気づいただけ」

律が優しく笑う。

「蒼真は、言葉にはしないけれど。誰よりも、あやめさんを見ていますよ」

「……律、言わなくていい」

珍しくむくれたようにそっぽを向く蒼真。
その横顔が可愛くて、胸がくすぐったくなる。


紅茶が淹れ終わり、律がソーサーを差し出した。

「どうぞ。疲れが取れるブレンドにしました」

「ありがとう……本当に優しいね、律は」

「優しいんじゃなくて、あやめさんを大切に思っているだけですよ」

さらっと言われて、心臓が跳ねた。

そんな空気を察したのか、蒼真が静かにブランケットを肩にかける。

「……寒いと、余計に疲れる」

「え……ありがとう」

蒼真の指先がほんの一瞬触れて、あやめの頬が熱くなる。

律が微笑みながら言う。

「気づいてました? 蒼真、あなたが落ち込むと、掃除の回数が普段より多くなるんです」

「律……!」

蒼真が目を丸くし、すぐに視線を落とした。

「……ただ、きれいだと、気分がマシになるかと思って」

その一言に、胸がぎゅっと締めつけられた。

タイプの違う二人の優しさが、
あやめの心をゆっくり溶かしていく。

律の甘い気遣い。
蒼真の静かな優しさ。

(ずるい……二人とも……)

「どっちが、好きですか?」

ふいに律が冗談めかして聞く。

「……両方」

その答えに、律は嬉しそうに微笑み、
蒼真はそっと目をそらした。

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