恋するだけでは、終われない / 卒業したって、終われない

第十一話


「……もう、海原(うなはら)君。しかたないなぁ〜」


 思わず固まってしまった僕の、再起動のボタンでも押すように。
 都木(とき)先輩が、ちょこんと。
 肩を人差し指で押してくれたあと。

「……おまたせ」

 そういってから、笑顔になる。


「それで、次の指示は?」
「え……」
「部長、つ・ぎ・の、指示は?」
「あの……じゅ、受験は……」

「合格発表……待ってるだけなの」
「えっ……」
 それでも、動けない僕を見て。

「いいから、早く指示してっ!」
 都木先輩の声が、急に大きくなった。





 ……もう、海原君! 『受験生』の前だよ。恥ずかしいから早くして!

 大学合格の、自信はある。
 だって、『この日』のために……頑張ったんだから。


 ……みんなが受験前に見送ってくれた、あの日。

 見直し用のプリント束の中に。
 『高校入試』当日の案内が挟まれていた。


「なにこれ?」
 佳織(かおり)先生の字で記されていたのは、『受験頑張れ』とかの激励じゃなくて。
 なんというか……シンプルに『予定ある?』とだけ。

 わたしの試験日とかスケジュールを、すべて把握しておきながら。
 あの先生ったら……まったく。
 わたしのやる気アップを見据えたのと。
 そして、当然合格の予定がないとこられないわよねと。


 ……『挑発』、してきたんだよ。


 おまけに、昨日の夜なんて。
 試験の手ごたえとか、そんなことは一切なしで。

 『一台目のバスに乗って、颯爽と登場すると胸キュン』

 スマホに、『それだけ』を送ってきたんだよ。


 でもおかげで、頑張った甲斐はあった。
 だから……絶対合格しているから平気なの!

 もう二月なのに、まだみんなと一緒になにかしようなんて。
 往生際が悪すぎなのはわかっている。
 ただ……それでもわたしは、その道を選んでしまうのだ。


 だから今朝は、一台目のバスに乗ってきた。
 もちろん、受験生には配慮したよ。
 そうして学校に着いたら、玲香(れいか)千雪(ちゆき)の姿が見えてね。


 ……それから海原君が、わたしを呼んだ気がしたの。


 海原君の姿を見て、本当はね。
 飛び込みたいくらいうれしかった。
 でも再会の日が……高校受験の日だもんねぇ……。

 受験生どころか、その親だってたくさんいる。
 そんな中で浮かれるわけにはいかなくて。
 だからわたしは、『部長』って呼んだんだ。
 だからお願い……恥ずかしいから。

「早く次の指示を、出してください!」


 ようやく我に帰った、海原君は。
「えっと……引き続きバスの下車誘導と、忘れ物確認をお願いします」
「はい」
「体調不良の受験生は、玲香ちゃんか市野(いちの)さんに対応してもらってください」
「はい」

「それで……ですね」
「えっ?」


「……都木先輩、どうかしましたか?」
「な、なんでもない。りょ、了解しました!」

 思わず大きめの返事をしたわたしに。
 海原君は驚いたみたいだけれど。

 ……驚いたのは、わたしのほうだよ。





 ……やはり藤峰(ふじみね)先生は『あなどれない』。

 今朝、外に出る前に。
「ちょっと、そこの部長!」
「はい?」
 『それ』を、僕のコートのポケットに無理矢理突っ込んで。

「いいから持ってって。お守りがわりだと思えばいい!」
 なんだか、らしくないお守りだと思っていたけれど。


 ……きっと『もうひとつ』インカムが必要だって、わかっていたのだろう。


「感動の再会は、いい加減終わりでいいかしら?」
「へっ?」
「えっ?」

 このあとバスのピークで、二台、三台、もう一度三台。
 体調不良は、これまで八名。
 玄関前の誘導係が極めて頼りない上。
 わたしは別に、『質問に答える係』ではないのだから……。

「だから『部長』、わたしを知らない人としゃべらせないで」
 三藤(みふじ)先輩が、インカム越しに一気にまくし立ててると。
 都木先輩が僕を見て、苦笑いしている。


「要するに、まだまだ忙しくなるわよ。あと……」


 ……もう放送部員の『追加』は見込めないから、サボるなと。

 三藤先輩が、先輩なりの歓迎の言葉を添えていた。


「真面目にやります、それも全力で!」
 都木先輩が、力強く答えると。 
 心から楽しそうな笑顔で。
「部長……みんな。お待たせっ!」


 ……そういって、次のバスへと向かっていった。




 こうして高校入試は、特に大きなトラブルもなく無事に終了した。
 ちなみに『後日談』としては、ふたつほどありまして……。


 ひとつ目は、万が一に備えて預かっていた五千円の包みを返しにいったとき。
「なんのことかしら?」
 寺上(てらうえ)つぼみ校長が、その存在を忘れていたことだ。


「非常用の『幸福の五千円』として、預かったものですけれど?」
「海原君は……『幸せ』を『返してくれる』のですか?」
「えっ?」
「幸せとは……返すものではなくて、わけるものでしょう」
「は、はぁ……?」

 副部長として同行中の、三藤先輩がため息をつく。
「部長では、『鈍すぎて』理解ができないようです」
「そのようねぇ……」
 校長まで、ため息ついたので。

「それこそ幸せが逃げますよ!」
 僕としては、頑張ったつもりなのに……。

「海原君は、『知識』はあるのにねぇ……」
「部長の『察し』が悪くて、申し訳ございません……」
 またふたりが、ため息をついていた。


 予備費が、『たまたま』消えたのだと。
 部費の足しにしてよいのなら、はっきり言葉にしてくれたらいいのだけれど。

 ……なんとも女性の言葉は、難しい。



 そして、ふたつ目については……。
 受験後のアンケートとして。
 無記名で玄関で回収したものに、僕たちのことが少し書かれていたらしく。

「あとで、ちゃんとみんなと共有しときなよ!」
 そういって、藤峰先生が『僕にだけ』教えてくれた。

   体調が悪かったけれど、励ましてもらえてうれしかった。
   バス停にいた女子の先輩たちのチームワークに、感動しました。
   かわいい先輩が迎えてくれて、この学校に入りたいと改めて思いました。

「どうよ、海原君?」
「みんな喜ぶと思います」
「よろしい、ではあとひとつだけ『特別に』教えてあげよう」


 ……なんだか、嫌な予感がする。


「『誰』を指すのかは、『自由』に想像したまえ」
 先生は、明らかに僕を試すような目で見ると。


 ……『カップル』の先輩が、かわいかった。


 ボソリといって、それから。


「キャァ〜」
 わざとらしく、ひとり悲鳴をあげると。

 僕を置いて、中央廊下を走っていった。




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