総長は姫を一途に溺愛する。
星川が先生に連れて行かれ、廊下が静けさを取り戻したとき。
 ひまりはずっと、蓮先輩の袖を掴んだまま震えていた。

 気づけば、指先は冷たくなっていた。

「ひまり」

 蓮先輩が低く呼ぶ。
 名前を呼ばれただけなのに、胸の奥がじんと熱くなった。

「……怖かったか?」

 問いかけは優しいのに、その瞳の奥では怒りが燃えていた。
 ひまりは小さく頷くしかできなかった。

「……ごめんな。俺が……守るって言ったのに」

 蓮先輩の手がそっとひまりの頬に触れた。
 かすかに震えているのは、ひまりじゃなくて──蓮先輩だった。

「蓮先輩……わたし、ほんとは……すごく怖くて……」

 言いかけた瞬間。

 ぎゅっ──。

 ひまりは蓮先輩の胸の中に引き寄せられた。
 制服ごしに伝わる体温が熱い。
 心臓の音まで近い。

「もう離すわけねぇよ」

「……え……」

「今日みたいなこと、二度と起きさせねぇ」

「蓮先輩……?」

 顔が上げられないほど、抱きしめられてる。

「怖い思いをしたのに……まだ震えてんのに……」

「……っ」

「なんで俺の近くにいなかった?」

 言葉は優しいのに、奥にあるのは強い独占欲。
 ひまりの鼓動が跳ねる。

「ひまり」

 低い声が、耳のすぐそばで落ちる。

「離れんなよ」
「どこにも行くな」
「……俺のそばにいろ」

 私は胸の奥がぎゅうっと締めつけられ、思わず蓮先輩の制服を掴んだ。

「……はい……」

 震える声で答えた瞬間──
 蓮先輩の腕に強く抱きしめられ、息が詰まりそうになる。

「……いい子だ」

 囁きは甘くて、苦しいほど優しくて。
 抱きしめられながら、ひまりは自分の頬が熱くなるのを止められなかった。
< 33 / 90 >

この作品をシェア

pagetop