総長は姫を一途に溺愛する。
放課後の昇降口。
私はカバンを閉めようとして、ほんの少し足を滑らせた。

「……きゃっ!」

足首をひねった瞬間、鋭い痛みが走り、その場にしゃがみ込む。

その音に、誰よりも早く反応したのが――蓮先輩だった。

「ひまり!?」

振り返った瞬間、彼は目を見開き、次の瞬間にはもう私のそばにいた。
肩を支えられた拍子に、さらに痛みが走り、顔を歪める。

「っ……いっ……」

「どこ怪我した見せろ」

声が低く震えていて、明らかに怒っていた。
けれど、その怒りの矛先が“私じゃない”ことはすぐにわかった。
全身から焦りと恐怖と、そして私を気遣う熱が滲み出ている。

蓮先輩は私の足元を見て、眉をぎゅっと寄せる。

「ひまり、それ……足首、腫れてるじゃねぇか」

「大丈夫……ちょっとひねっただけで……」

言い終わる前に、

「大丈夫じゃねぇよ」

低い声が落ちてきた。
その声は怒っているのに、震えていて――だから余計に胸が痛くなる。

蓮先輩は私の足をそっと持ち上げ、自分の膝の上に乗せた。
優しいのに、どこか切羽詰まった動作だった。

「痛くないようにするから……我慢しろ」

触れる指先が驚くほど優しい。
普段の強さとはまるで違う、壊れ物を扱うような温度。

「……ひまり、頼むから、離れるなよ」

沈むような声に、思わず鼓動が跳ねる。

「今日……ずっと誰にも触らせねぇぐらい守ってたのに。
俺がそばにいない時に怪我して……マジで心臓止まるかと思った」

そんな……大袈裟だよ、って言おうとしたけど、言えなかった。
蓮先輩の目が本気で震えていたから。

「歩けるわけないだろ。……俺が連れてく」

次の瞬間、ひょいと抱き上げられた。

「わっ……れ、蓮先輩!? 自分で歩けますって……!」

「歩かせねぇよ。ひまりがまた痛がるの、見たくねぇ」

ぴたりと胸に抱きしめられ、耳元で低く囁かれる。

「……ひまりが傷つくの、俺が一番耐えられねぇんだよ」

心臓が一気に熱くなる。

「だから、怖かった。
お前が転んだ瞬間、全部胸がひっくり返った……」

蓮先輩の腕がぎゅっと強まる。

「ひまり……これから先、一生俺のそばにいろ。
怪我も、不安も、痛みも……全部、俺が無くす」

「れ、蓮先輩……」

顔を上げると、彼の表情は本気だった。
いつもの余裕も笑みもなく、ただただ“私のことだけ”考えている顔。

「好きだよ、ひまり。
傷つくひまりなんて、見たくねぇ。
俺だけが守るから……どこにも行くな」

胸がいっぱいになって、涙が滲んだ。

「……はい。蓮先輩、そばにいます」

言うと、彼は安堵したように息を落とし、私の額にそっと唇を触れさせた。

「……ひまり。
二度と怖がらせんな。俺も、お前自身のことも」

その声は甘くて、苦しくて、そして誰より優しかった――。
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