運命には間に合いますか?
 研修三日目の水曜日。
 講義が終わって、ビルを出たところに柴崎がいた。
 通り過ぎようとしたら、話しかけてくる。
「大橋は守谷さんと知り合いなのか? やけに親しくないか?」
 いきなり責めるように言われて、私は口ごもった。
 講義の前後に守谷さんがかまってきていたのを見られていたようだ。
 懸念したように柴崎は守谷さんの態度に不公平感を覚えたのかもしれない。
「……親しくは、ない。ちょっとした知り合いなだけ」
「ちょっとしたって感じじゃないけどな」
「別に研修とは関係ないわ。評価が変わるわけじゃないし」
 そう言うと、柴崎は不機嫌な顔で「そううことじゃない」とつぶやいた。
(なんでこの人はいちいちつっかかってくるんだろう?)
 うんざりして、私は話を打ち切ろうとした。
「それじゃあ――」
「待てよ!」
 立ち去ろうとした私の手首を柴崎が掴んだ。
 驚いて振り払おうとするけれど、意外にもその力は強くて離せない。
「なに?」
 むっとして彼を睨むと、柴崎も鋭い目でこちらを見てくる。
 自分で引き留めたくせに、彼は黙ったままだ。
「なんなの?」
 こんなところを誰にも見られたくなくて、私はいらだった声を出した。
 なぜか守谷さんの顔が浮かぶ。
 柴崎はハッとしたように手を放すと仏頂面で首を振った。
「……なんでもない」
「そう。じゃあね」
 なんなのかなと憤慨しながら、私は帰宅した。

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