運命には間に合いますか?
 インターホンを鳴らすと、よれたTシャツ、ジャージ姿の守谷さんが出てきた。
 寝乱れた髪と無精ひげがセクシーに見えてしまう。
「ゴホッ……悪いな、こんな夜に……」
「いいえ、私が来たかったんです。守谷さんは寝てください」
 彼を部屋の中に押し戻して、ベッドに寝かせた。
 本当に具合が悪いようで、彼は大人しく従う。
 私は水分補給させたり薬を飲ませたり、甲斐甲斐しく世話を焼いた。
「化粧してない大橋さんも、かわいいな……」
 ゴホゴホいっているくせに、頬をなでてきて、心臓が落ち着かない。
「いいから寝てください!」
「はいはい」
 彼はしんどかったようで素直に目を閉じた。
 守谷さんが寝てしまうと、ほっとしてベッド脇に腰かけて、彼を見つめた。
(やっぱり好きだ……)
 彼が好きになるのに時間はいらないと言っていたけれど、本当だった。
 こんなに好きになっていたなんて不思議だ。
 でも、あんなに口説かれたら、仕方ないのかもしれない。
 ふふっと笑って、彼の頬にかかっていた髪をそっとはらってあげた。

 守谷さんを見ている間に寝てしまっていたようで、肩になにかふれた気配で起きた。
 彼がブランケットを私にかけようとしてくれていたようだ。
「悪い。起こしたか」
「こちらこそ、ごめんなさい。寝てしまって。調子はいかがですか?」
「おかげさまで、だいぶ楽になった。ありがとう」
 そう言いながら、守谷さんはしげしげと私を見る。
 寝ぐせでもついているのかと、慌てて手櫛で整えてみるけど、彼の様子は変わらず、私は問いかけた。
「なにか?」
「あぁ、ごめん。俺の部屋に君がいるなんて、現実かどうか疑ってた」
 前髪を掻き上げつつ、そんなことを言うので、私は吹き出した。
 腕を引っ張って守谷さんをもう一度ベッドに寝かせながら返す。
「ちゃんと現実ですよ」
「……どうして来てくれたんだ?」
 ふいに尋ねられて、口ごもる。
 どう答えようかと彼の顔を見つめ、考えた。
 守谷さんはいつも飾らない言葉で気持ちを伝えてくれていた。
 それなら私も同じようにしようと覚悟が決まる。
「好きだから。守谷さんが好きだからです。夢を優先して恋愛はあきらめようと思っていました。でも、あなたのことはあきらめたくないと思ったんです」
 そう言った直後、守谷さんが額に手を当てうめいた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。熱が上がりそうだ」
「えぇっ、それは大変! 氷枕使いますか? 薬は?」
 慌てた私が身を乗り出すと、頬に手を当てられた。
 彼が確かめるようになでるから、ふれられたところが熱くなる。
「いや……やっぱりリアルな夢なんじゃないか?」
「だから、現実ですって!」
「本当に俺が好きだって言ったのか?」
「はい……」
 恥ずかしくなって目を伏せる。
 守谷さんは私を引き寄せかけて、慌ててすぐ離した。
「あーっ、俺はなんでこんな大事なときに風邪を引いてるんだ!」
 頭を抱える彼の様子に、私はくすくす笑いが込み上げる。
 布団を肩までかけてあげて、告げた。
「そう思うなら、もう少し眠って、さっさと風邪を治してください」
「わかった。だから、起きたらもう一度言ってくれるか?」
「……わかりました。頑張ります。だから、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
 久しぶりの守谷さんのおやすみが聞けた。
 そうして、私たちは恋人になった。
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