運命には間に合いますか?
 コーヒーが出てきて、さりげなく伝票を取ろうとしたら、すばやく守谷さんがかっさらっていってしまう。
「あっ、お礼なのでここは私が……」
「いやいや、お祝いだから出させてよ」
「でも――」
 守谷さんは出させてくれる気はないようで、どうしようと困っていると、提案された。
「お礼をしてくれるっていうなら、今日もうちょっと付き合ってくれないか? 今日がダメだったら出直してもいいが」
「今日は特に予定はないので大丈夫ですが、どちらへ?」
「大正時代の洋館が期間限定公開してるんだ。そこのカフェが評判で行ってみたいと思ってたんだが、男一人で行くのも味気ないし、よかったら行かないかと思って」
「それはむしろ行きたいです! あっ、でも……」
 お礼に付き合うどころか、そんな建物は積極的に見に行きたいと思ったけれど、ふと思い出したことがあって、私は口ごもった。
「でも?」
「美奈子さんが気を悪くしませんか?」
「美奈子? どうして美奈子を知ってるんだ?」
 守谷さんが不思議そうに首をかしげた。
 彼は自分でつぶやいたことを覚えていなかったようだ。
「昨日お借りしたヘルメットは美奈子さんのだって言われてたから……」
 恋人が異性と出かけるのは嫌かもしれないと思った。守谷さんにも私にもそんな気がなくても。
(私だったら嫉妬するなぁ)
 でも、守谷さんはよっぽど私が眼中にないのか、そんなことを考えもしないようで、なんでもないことだというように肩をすくめた。
「あぁ、そういうことか。大丈夫だ。美奈子は気にしないよ。それに今日は車だから、あのヘルメットは使わないし」
「そうなんですね。それじゃあ、お供します」
 少しもやっとしながらも、大正建築を見たい欲求のほうが上回り、私はうなずいてしまう。
 破顔した守谷さんは立ち上がった。
「じゃあ、さっそく行こう」

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