say that you love me
「唯、おはよ」

目を覚ますと、晃哉が優しく唯の寝顔を見つめていた。

「……おはよぉ……こらぁ……見ないでよぉ」

そう言って、唯は照れたようにもう一度目を閉じる。

「はは。ほら、唯。起きて。俺、そろそろ仕事行かなきゃ」

布団から半分だけ顔を出し、唯はいたずらっぽく囁いた。

「……休んじゃえぇ、笑」

晃哉は吹き出して、唯の頭をくしゃりと撫でる。

「行きたくないけどね。俺、大人なんで」

「ちぇ~、こうちゃんのいじわる~」

しぶしぶベッドから出ようとする唯の腕を、晃哉がそっと掴んだ。

「……あと10分だけね?」

そのままベッドに引き戻される。
それだけで、唯の顔はぱっと花が咲いたみたいに明るくなった。

少しの沈黙のあと、晃哉が静かに口を開く。

「唯? 俺、今日からまたしばらく帰れないと思うんだ。帰って来れても、少し休んでまたすぐ行かなきゃない日が続くと思う。いっぱいいっぱいになって、返事とか遅れたらごめんな。ちゃんと読むし、遅くなっても必ず返すから」

「うん。大丈夫だよ。昨日、話してくれたもんね。……あ、でもメールしたいときはしてもいいかなぁ?」

ほんの少しだけ寂しさを滲ませた唯の表情を見て、晃哉は迷わず答えた。

「もちろん。唯がしたいときに、我慢しないで送って」

「こうちゃん優しいね。大好き~」

「……俺も、唯は特別だな。じゃなきゃ、わざわざこんなこと言わないよ」

いつもははぐらかすのに、その日の晃哉はなぜかまっすぐだった。

目が合う。
優しく撫でられる髪の感触に、胸の奥がじんわり熱くなる。

「……あ! こうちゃん、10分たったよ!」

照れ隠しのように勢いよく起き上がる唯。
二人は並んで身支度をしながら、何気ない言葉を交わした。

「行ってくるね。気をつけて帰るんだよ?」

晃哉は手を振り、仕事へ向かう。

その背中が見えなくなるまで、唯はずっと見つめていた。



ねぇ、こうちゃん。

あなたはいつだって、私といるときは大人だったね。

あなたに出会って初めて、
誰かを本気で好きになるって、こういうことなんだって知ったんだよ。

わがままだった私が、
自分よりも大切に思える人ができた。

あなたの「特別」という言葉が、
あの頃の私には世界のすべてみたいに嬉しかった。

無邪気だ、素直だって言ってくれたけど——
きっと私は、疑うという感情をまだ知らなかっただけなんだと思う。

あなたと経験することすべてが初めてで、
ただ、あなたの言葉も行動も、まっすぐに信じていた。

あのとき、私の世界はあなたでできていた。

だからね。

あなたの嘘は、
子どもだった私の心を壊すには、十分すぎるほどだった。

でも今は思う。

嘘をつかなきゃいけないほど、
あなたも苦しかったのかなって。

それを人は“ずるい”と言うのかもしれない。
それでも——

あなたと過ごした日々まで、嘘だったとは思えない。

ねぇ、こうちゃん。

もう少しだけ。
ほんの少しだけでいいから。

せめて、あなたの転勤が終わるまで——

この気持ちを、抱えさせて。
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