【第13回ネット小説大賞受賞・書籍化】王太子殿下、終了のお知らせです。

ジルベール

今朝の会議には、全員が喪服を纏っていた。
ルイの訃報を受け、葬儀に参列させてもらったのだ。
共同墓地に埋葬という話はアンジェリカが止めた。
もちろんエリオット公爵家の霊廟には入れないが、その裏手の一角にある公爵家ゆかりの者たちが眠る墓地に埋葬することを提案したのだ。
故に、墓標に家名はなくただ『ルイ』とだけ記されている。

「あのご両親と妹君に囲まれていた彼が、何故と思う気持ちが拭えませんね」

カールの言葉に皆が頷いた。

「遺書にも書いていたそうだけれど、一人で抱え込まずに、生き延びて贖罪する方向に目を向けて欲しかったわね」

今はただ、冥福を祈るばかりだ。
しんみりした空気を振り払うように、アンジェリカが明るい声で言った。

「さあ、許可が出たから面会に行きましょう。生きる理由を与えにね」


◇◇◇
ラシェルたちの幽閉場所には、見張りの衛士たちの仮眠場所としての小部屋がいくつかある。
外に錠の掛かった一つの扉を開けてアンジェリカが姿を現すと、医師の診察を受けていたその人物は寝台から降りて足枷を捌きながら礼を執った。

「貴方から礼を受けるのは初めてね。楽にしていいわ」

そう言われて硬い表情になった彼を衛士が椅子に坐らせた。
医師の話では、抜糸を終えて傷も綺麗に塞がっているので、今日から普段通りの生活に戻れるとの事だ。
椅子に坐って顔を上げた彼は驚いた表情でアンジェリカの側近たちを眺めている。

「ああ、この姿では初めましてよね。バランデーヌの脅威が去って、皆やっと本来の姿に戻れたの。発言を許可するわ」

そう言ったアンジェリカに一礼して、メルヴィルを凝視していた彼は口を開いた。

「マクガリー様は、女性騎士科に所属していたはずでは…」

その問いにはメルヴィルが答えた。

「所属はしていたが生徒ではない。私は二年前に騎士科の卒業資格を得ているので、女性騎士科の講師として招かれていた」

ああ、と納得した表情を浮かべた後、喪服に気付いた様子でアンジェリカの顔を見た。

「そう、昨日ルイさんが亡くなったの。先ほど皆で埋葬を見届けて来たわ。ラシェルさんを生涯幽閉にするために自分を犠牲にしてしまった。完璧主義者の彼は今回も一人で抱え込んでしまったの」

それを聞いた彼は、唇を震わせ『そうですか』と呟いて俯いた。
そして、意を決したようにアンジェリカを見上げて問いかけた。

「何故、私は生きているのでしょうか」

その真っすぐな目を受け止めたアンジェリカは答えた。

「運び出された時の貴方は、止血をすればかろうじて助けられる状況だった。
こういう時、医師は見殺しには出来ないらしいわ。
生き延びた貴方には別の罰の後に贖罪の機会を与えようと思います。きっとあなた以上の適任者は居ない」

その言葉に戸惑いを隠せないジルベールを促し、部屋を出た。
向かう先が建物の外だと気づいたジルベールは驚いてアンジェリカを振り返った。

「さっき言った通り貴方の罰は別の物よ。その後の贖罪がどんな内容かは改めて伝えるわ。
先ずは、新しい幽閉先へ案内するわね」

そう言って着いた先は離宮の塔だった。この上には特別牢がある。
階段を上りながらアンジェリカが説明した。

「この上の特別牢に居るのは元国王夫妻よ。あなたにはここで二人のお世話をお願いしたいの。元国王は寝たきりで自分で動く事も話す事も出来ないわ。一日に何度も体勢を変えなければいけないからほとんど歩けない元王妃には無理なのよ。今までは騎士や下男が手伝ってくれていたけれど行き届かなくてね」

その言葉に驚いた表情のジルベールに、アンジェリカは続けた。

「二人が助かったのはほとんど奇跡だったわ。お父様が貴方たちに話した、あの離宮の離れで起こった事は本当よ。運び出された時には二人の息はなかったの。
でも、棺に入れる準備をしている時に元王妃が息を吹き返して、元国王に取り縋っているのを離そうとした時、まだ弱々しく脈がある事が分かってね。
貴方の時と同じね。医師は見殺しには出来なかったの」

そう言って、辿り着いた牢の扉の前でアンジェリカはジルベールに確認した。

「元国王は食べ物をほとんど受け付けなくなっているから、その医師の見立てでは持って半月、元王妃は息を吹き返した時から記憶が混濁しているわ。それに心臓がかなり弱っているからそう長くはないそうよ。
二人に会うのはご両親を失った貴方には酷かもしれない。もし辛いなら元の牢に引き返せるわ」

ジルベールは落ち着いた声で答えた。

「私たちが生き残ったのは神の廻り合わせかもしれません。ここで陛下の信頼を裏切った父母の分も償いをさせて下さい」

その返答を聞いてアンジェリカが扉を開けると、鈴を転がすような明るい声が掛けられた。

「いらっしゃい、お嬢さん。あら、今日は新しいお友達が一緒なの?」

牢の中央に、人形を抱いて幼子の様に屈託のない笑顔を向ける女性が椅子に座っていた。
床には織物が敷かれ、壁には大きなタペストリーが掛かっている。
どれもごく質素なものではあるが、格子が無ければ牢とは思えない素朴な雰囲気の設えになっている。
その奥にある寝台に横たわった男性が、首だけこちらに向けて虚ろな目でじっと二人を見ている。
ジルベールは元国王夫妻の変わり果てた姿に衝撃を受けて立ち尽くした。
二人はジルベールの事が分からないらしい。

「こんにちは。この方は今日からお二人のお世話をしてくれるジルベールさんよ。
隣のお部屋に住んでもらう事になったの、よろしくね」

アンジェリカは、椅子に座る女性に優しく微笑んでジルベールを紹介した。
牢は格子で二部屋に仕切られているが、その間の扉の錠は取り払われている。
衛士が足枷を外し、牢に入ったジルベールは、元王妃の前に跪いて目線を合わせ、ゆっくりと語りかけた。

「初めまして、私はジルベールと申します。これからご主人と奥様のお世話をさせて頂きます。どうぞよろしくお願いします」

元王妃はぎゅっと人形を抱きしめて、首を傾げて屈託のない笑顔を返した。

「ええ、よろしくね」

その様子を眺めて、アンジェリカは元王妃に声を掛けて部屋を出た。

「それではごきげんよう。今度来る時にはもう一人素敵な子を紹介するわ」

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